頻度で実施した。過去25日分の評価結果を基に今後の水素メーザー周波数変動を一次フィッティングで予想し、その変動分を打ち消すように周波数調整器AOGで周波数を調整した。このような手順で、光周波数標準を利用した高精度な時系実信号TA(Sr)の生成に世界に先駆けて成功し、これを5か月間継続した。TA(Sr)とUTCの時刻差を図16の緑点で示す。目安に各点を実線で結んでいる。2016年の4月から生成開始し、最初の1か月間はその後の水素メーザーの周波数変動を予想するための調整期間とし、5月の初めにUTCとの時刻差をゼロに調整した。この時刻差は次第に大きくなり、5か月後には8nsにまで広がった。一方で、UTCよりも定義の秒(SI秒)に近い歩度で時を刻んでいるBIPM地球時TT(BIPM16)との間の時刻差は、5か月間2ns以内に収まった(図16の赤点とガイドの赤実線)。つまり、この期間限定ではあるが、我々はUTCよりもSI秒に近い歩度で時を刻む時系の生成に成功したことになる。今回生成した実信号TA(Sr)のデータを用いて異なる水素メーザーを原振とした場合のシミュレーションも行った。日本標準時では、各原子時計間の位相を常時計測しているので、原振を異なる水素メーザーに置き換えた場合の後処理の時系も計算できる。シミュレーションで得られた時系とTT(BIPM16)との時刻差を図17に示す。原振となる水素メーザーの違いにより差異が出たため、個体差に依存する偏りを減らすべく条件を変えた評価方法をシミュレーションに取り入れた。詳細は文献[39]に譲るが、水素メーザーの周波数ノイズ成分が白色周波数ノイズとフリッカー周波数ノイズから成っていると仮定し、ある頻度で水素メーザーの周波数が分かると仮定した場合の位相逸脱による時刻の時間変動を図17の影の部分で示す。結論として、実信号及び実データを使ったシミュレーションと簡単な仮定を入れた解析解の結果は良く一致していた。この結果から、生成する時系信号の目標精度を設定し、どの原振をどの頻度で評価すれば目的の時系信号を実現できるか設計できる。近年では米国NISTも我々の提案する光マイクロ波ハイブリッド方式と同様な時系生成を過去のデータを用いて後処理で計算したシミュレーション結果を報告している[49]。あとがきTAIの校正に寄与し国際的な周波数標準として機能し始めたNICT-Sr1をNICT内外の他の周波数標準と比較する取組は、光標準周波数の一致度検証や、将来の時刻・周波数の共有及び供給方法の精度向上につながり、秒の再定義の国際的な議論で必要となるデータを提供するうえで重要である。これまでに我々が既に実施した周波数リンクと現在取り組んでいる周波数リンク、さらには今後予定している周波数リンクを図18と表1に示す。欧州宇宙機関ESA(European Space Agency)主導の下で進めている人工衛星ミッションACES(Atomic Clock Ensemble in Space)では、高精度原子時計を国際宇宙ステーションに搭載して、世界に配置した地球657510575405757057600576305766057690-3-2-101234(ns)TA(Sr)HM1_everyweekHM1_oddHM1_evenHM2_everyweekHM2_oddHM2_evenHM1_everyweekHM2_everyweekHM1_every2weeksHM2_every2weeks図17 実信号TA(Sr)と実信号データを用いたシミュレーション及び解析結果TT(BIPM16)との時刻差として示している。実際に生成した信号TA(Sr)を赤点とガイドの赤実線で示す。HM1とHM2が原振の場合のシミュレーション結果をそれぞれ実線と破線で表している。1週間ごとあるいは2週間ごとに各原振(水素メーザー)をNICT-Sr1で評価したと仮定した場合の結果である。影は解析的に計算した時刻差の広がり。実信号及び実データを用いたシミュレーションと解析結果が良く一致している。詳細は[39]参照。1114-5 ストロンチウム光格子時計の周波数比較及び時系生成への応用
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