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はTCBとTCGの差が増大することになる[3]。TTはTAIの理想化として考えられているジオイド上に静止している正確な時計の固有時を理想化した座標時と定義される。したがって、TTはTCGに比べてジオイドの重力ポテンシャル分だけ遅れることになる。この遅れは、時間に比例する成分だけからなり、平均周波数差は同じである。その関係は、次式のように表せる[7]。ここで、 6.969290134 10。は定義値で、ジオイドのポテンシャルを光速の2乗で割ったものである。この時間の遅れは1日当たり約60sになる[3]。また、TTはETとの連続性を保つため、TAIに対して32.184秒の時刻差を持つことになった。TT TAI 1970年代には上記のように歩度が異なる別々の時系が存在していた。そこで、平均的な歩度がTTと等しくなるように、TCBとTCGから時間に比例する成分を取り除く調整をした時系が1970年代後半に提案された。TCBから求められる時系がTDB、TCGから求められる時系がTDTである[3]。TDBとTCBの関係は下記のように定義される[7]。ここで、 1.550519768 10は定義値である。また、TCGとTTの違いは時間に比例する成分だけなので、TDTとTTは事実上同じと考えてよい[3]。つまり、TDT TT歴史的には、TDBとTDTの概念の方がTCBやTCGよりも先に導入されている。TDBとTDTは、1980年代半ばに行われた天体暦の改定に伴って、それまでのETに代わる時系として導入された[3]。地心におけるTDBとTDTとの差は、先述したように1.6msの周期項のみからなり、長期間の平均を取ればゼロにならされる。これらの関係は、国際地球回転・基準系事業IERS(International Earth Rotation and Reference System Service)*6が発行するIERS Technical Note No.36[7]に図1のようにまとめられている。現在では、高精度な原子時計に基づく原子時がTTを高精度に現示できるようになった。そのため、TT以外のtime systemは、TTに関係付けられるようになっている。様々な標準時系とそれらの現示精度に 基づく階層            地球上の活動に関しては、観測者の位置など地球上の位置・運動を記述するための基準座標系である地球空間座標系TRS(Terrestrial Reference System)を用いるのが便利で、この時間部分であるTTが標準時系に用いられている。現在では、time systemであるTTから導かれる様々な標準時系が存在する。これらの標準時系同士はそれぞれの現示精度に従い階層をなしている。まずは標準時系の生成方法を通してそれらの関係を説明する。図2のように、国際度量衡局BIPM (Bu-reau International des Poids et Mesures)*7は世界中の国立標準機関などから集めた原子時計データを加重平均して自由原子時EAL(Échelle Atomique Libre)を計算する。EALの生成にはNICTの原子時計群を含めて現在では世界中の400台以上もの原子時計が参加している。EALは究極の周波数長期安定度を求める時系である。BIPMは、世界中の一次及び二次周波数標準によるEALの歩度評価を集め、ジオイド上で定義のSI秒を積算した時系になるように周波数校正をしてTAIを決定している。装置としての原子時計において機差は避けがたく、その出力周波数は完全に4図1 現在使われている主なtime systemの関係TDTは省略しているが、TDT = TTの関係にある。実線の矢印は、IERS Technical Note No.36[7]にその関係式が記述されている。点線の矢印はこのTechnical Noteには明確な記述は無い。TCB, TCG, TDB, TTは座標時であり、唯一の固有時に関係付けられる。TCBTCGTDBTT固有時固定レートLB固定レートLG周期項、4次元変換周期項、4次元変換*6国際地球回転・基準系事業IERSIAUと国際測地学・地球物理学連合IUGG[24]によって1987年に設立され、地球回転に関連する観測データを提供する国際機関[25]で、世界時の決定がひとつの業務となっている。*7国際度量衡局BIPM1875年に締結されたメートル条約に署名した国々が創設した恒久的な学術機関。国際度量衡委員会CIPMの監督の下に計量標準に関する事業を行い、物理的な諸測定の世界統一を確保することを使命としている[26]。パリ郊外のセーブルにあり、時間・周波数分野については、UTCを計算・決定し、その結果等をCircular Tと呼ぶ報告書で毎月発表するなど大きな役割を担っている。6   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)2 現示精度に基づいた標準時系の階層

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