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る電極を用いる。イオントラップでは、アーンショーの定理より静電場でポテンシャルの極小点を作ることができないため、交流場を利用して疑似的な極小点を実現する。linear-Paulトラップでは動径方向の2次元を交流電場で閉じ込め、軸方向の1次元を静電場で閉じ込める。周波数計測への応用を前提とした場合、交流電場でのトラップは電場鞍点でのみ可能で、それ以外の場所ではACシュタルクシフトと微細振動によるドップラーシフトを受けるため適切ではない。linear-Paulトラップは交流電場の鞍点が線上に存在するので、複数のイオンをトラップした状態での計測が可能で、共同冷却を実現することができる。図2右は本グループが開発したイオントラップ電極である。電極は加熱効果を軽減するため熱伝導率の高いベリリウム銅を使用した。また、ステンレス製トラップ電極を使用した際、紫外線ビームの影響で、電極表面が帯電しトラップイオンの位置がずれるなどの現象が観測されたが、効果を抑制するため金でコーティングを施した。時計遷移計測時はRF電極に30 MHzの交流電圧を1 kVppで印加し、静電場電極に500 Vの電圧を印加して使用する。この交流・直流電圧の印加によりCa+が受けるトラップ振動周波数は動径方向で2π×4.0 MHz、軸方向で2π×500 kHzであった。前節で記述したとおり、軸方向のトラップ周波数はイオンの数・質量・配列に依存した集団振動周波数となるため、表2で示した周波数比を掛けることで実際のトラップ周波数が得られる。2.2レーザー光源In+の周波数計測には波長237 nmの時計遷移光と波長230 nmの検出光が必要となる。この2つの光は共に深紫外領域にあり、これらの波長で周波数計測に利用できる狭線幅レーザーは無く、第二次高調波発生(SHG)などの波長変換技術を用いる必要がある。本研究では各レーザーの周波数安定化及び光周波数コムを用いた周波数計測を行うという理由から、各々の4倍の波長にあたる946 nm及び922 nmの外部共振器型半導体レーザー(ECDL)でレーザー光を発振し、SHGによる波長変換を二段階行って該当波長の光を得る。図3に各々のレーザー系のセットアップを示す。時計レーザーは精密な周波数制御が要求されるため、超低膨張ガラス(Ultra Low Expansion, ULE)を用いたフィネス320 000の共振器に対して安定化させる。ULEは特定の温度で1次の熱膨張係数がゼロとなる性質があり、その温度で共振器に使用した際に周波数の変化が極めて小さくなる。ECDLから発振されたレーザー光はテーパー型増幅器(Tapered Amplifier, TA)で1 Wに増幅され、そのうち一部を分岐させ周波数安定化に用いる。周波数安定化を行うULE共振器に光を送る過程で、複数の音響光学素子(Acousto-Optic Modulator, AOM)を使用し、そのオフセット周波数を制御することでレーザーの周波数制御に利用する。周波数計測を行う際、周波数制御には主に(1)周波数スキャンなどの意図した操作と、(2)共振器のドリフトなどの周波数変化を補正するための制御の2通りが存在する。光周波数コムで計測する際、計測される光は(1)の制御とは独立で、(2)の補正のみを受けていることが望ましい。そこで図3に示しているとおり、光コムに送るポートをAOM1透過後に作り、計集団振動周波数 / Ca+トラップ周波数Ca+1.000In+0.577Ca+ - Ca+1.0001.732Ca+ - In +0.6841.492Ca+ - Ca+ - Ca+1.0001.7322.408Ca+ - In+ - Ca+0.7611.7321.869Ca+ - Ca+ - In+0.7401.4342.317表2 40Ca+及び115In+混合トラップの集団振動モード周波数比単一40Ca+のトラップ周波数を基準とした。図2 linear-Paulトラップ電極概略図(side view, front view)及び実際に作製した電極の写真1mm30MHz1kVppside viewDC leftTOPDC rightTOPDC leftbottomDC rightbottomfront view~500V3mm120   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)4 原⼦周波数標準

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