3.2磁場印加による副準位の分離前節の計測では、3P1準位の分裂し光ポンピングが阻害されることを避けるために、低磁場環境で計測を行う必要があった。このため、すべての副準位からの遷移が非分離な状態での観測となった。この方法では僅かな磁場の影響でスペクトルが広がり、また不完全な光ポンピングにより、意図しない遷移が重なって観測されることで、スペクトルの中心値がシフトしてしまう。このため、表3で示すとおり磁場による周波数シフト(一次ゼーマンシフト)の不確かさが全体の不確かさを支配していた。より高い分解能で、かつ磁場による不確かさを減らすためには副準位の分離が不可欠である。3P1準位の分裂を伴わずこの問題を解決するために、磁場のパルス印加を行った。図8に時計遷移周波数計測時の時計遷移光・検出光・In+蛍光カウントゲート・Ca+冷却光・軸方向磁場のタイミング系を示す。図で示されているとおり、軸方向磁場は時計遷移光を照射したときのみ印加する。これにより検出光照射のタイミングでは強い磁場は印加しないので3P1準位は分裂せず、光ポンピングが行える。図9にパルス磁場印加によって得られたスペクトルを示す。各々のスペクトル線幅は80 Hzで、前節で記述した副準位が非分離な状態での計測における線幅(500Hz)と比較すると、1/5以下である。3.3ロック動作による周波数の安定化一般的に光時計は時計レーザーを継続的に時計遷移に周波数ロックさせることによって安定な光周波数を生成する。本節ではIn+を用いた初の周波数ロック動作について述べる。前節で示した遷移CL±を周波数基準として用いる。遷移CL±のスペクトル全体を観測するとフィードバック周期が長くなってしまうため、スペクトルの肩の2点での遷移確率を観測する。この2点の励起確率の差を誤差信号として利用し、時計レーザーのドリフトを検出し制御する。協定世界時に準拠するUTC(NICT)にリンクした水素メーザー、または光格子時計(NICT-Sr1)を周波数基準としてイッテルビウム(Yb)ファイバー光コムで周波数安定度と図7 過去に報告された周波数値と本計測値の比較Garching, 2000及びErlangen, 2007はそれぞれ参考文献[10]及び[11]の報告値を示す。緑の帯は2003年に決定されたCIPM推奨値の1σの範囲を示し、青の帯は改定された推奨値の1σの範囲を示す。図8時計遷移周波数計測システムのtiming table。20msの時計遷移光照射に同期して磁場を印加する。1 267 402 452 901 049.9(6.9)HzGarching, 20001 267 402 452 899 920 (230)Erlangen, 20071 267 402 452 901 265 (256)Tokyo, 20172017年推奨値1 267 402 452 901 050 Hz不確かさ1.6x10-142003年推奨値1 267 402 452 899 920 Hz不確かさ3.6x10-13CIPM推奨値を更新!detectionbeamclockbeamCa+ coolingbeamaxialmagneticfield60 mscycle time~100 msNon-interrogation cyclefor 1S0 decayphoto-countgatedead time~20 msシフト/Hz不確かさ/Hz一次ゼーマンシフト04.6二次ゼーマンシフト0<0.1時計レーザーによる周波数シフト00.1黒体輻射シフト0<0.1二次ドップラーシフト (secular運動)00.7二次ドップラーシフト (micromotion)00.4重力シフト10.5<0.1合計10.54.7表3 各要因におけるシフトとその系統不確かさ[12]1234-6 インジウムイオン光周波数標準
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