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絶対周波数の評価を行う。時計レーザーULE共振器の周波数ドリフトに起因する周波数誤差を除くため、時計レーザーの周波数制御には1000秒ごとの周波数ドリフト補正を付加した。CL±の遷移についてそれぞれ2点ずつの合計4つの周波数について、前節で述べた観測サイクルを100回行うことにより励起率を算出し時計レーザー周波数へのフィードバックを行った。フィードバック周期はこの観測サイクルの総計で与えられ、現在の装置ではおおよそ70秒である。光コムで計測した周波数安定度を図10に示す。フィードバック周期以下の積分時間での安定度は単独での時計レーザーの安定度を示している。水素メーザーを基準とした測定では、短い積分時間では水素メーザー自身の不安定さが支配的となり、長い積分時間での測定のみが意味を持つ。フィードバック周期以上の積分時間での測定結果がIn+時計遷移に周波数ロックした時計レーザーの周波数安定度を示す。時計遷移への安定なロック動作は繰り返し行った実験で確認されたが、安定度計測では積分時間が1000秒以上となってようやく安定度が向上するのが観測された。安定度が向上する積分時間がこのようにフィードバック周期より長い問題は、フィードバック定数の最適化や、励起確率増強によるフィードバック周期短縮化で改善が期待される。フィードバック定数の最適化を施さない現在の状態でも測定した安定度は4000秒の積算時間で1.5×10-15に到達している[14]。まとめと今後の展望NICTにおける115In+イオン光時計開発について報告した。115In+イオン光時計遷移周波数の先行研究における報告値は2つのみ(2000年[10]、2007年[11])で、その値が各々の不確かさの5倍ほど離れており、事実上未決状態であったが、本グループの報告した周波数値がその一方と一致することで解決された。この周波数値の報告によって、国際度量衡委員会(CIPM)の定める115In+イオン光時計遷移周波数の推奨値がそれまでよりも不確かさが1/20以下の値へと改定された。また2017年の計測に続く時計システムの改良で、10-16台の計測が可能となった。現在では参照信号である水素メーザーの安定度に依存しない計測を行うために、Sr光格子時計の時計レーザーと光コムを介した周波数比較を行っている。より高精度の計測が可能となり10-16台前半の確度での計測ができるようになると、In+の時計遷移周波数を「秒の二次表現」の候補となる可能性が期待される。現在「秒の二次表現」にはイオン標準で4つ(27Al+,199Hg+,88Sr+,171Yb+)、中性原子で3つ(171Yb,87Sr,199Hg)の合計7つの原子の持つ光学遷移が含まれている。本グループではIn+の時計遷移をこの「秒の二次表現」に追加することを目指していく。4図9  パルス磁場の印加によりZeeman分裂したスペクトル(左)及び各々に対応する遷移強度(右) 0 0.05 0.10 0.150.20 0.25 0.30-2000-1500-1000-500 0 500 1000 1500 2000 2500Excitation raterelative frequency / HzSet+Set-EX-EX+CL+CL-クレプシュ・ゴルダン係数の二乗EX+CL+CL-EX-図 10 時計レーザーのアラン分散赤で示した点が水素メーザーを基準として計測したものを示し、緑の点はSr光格子時計を基準にした計測を示す。124   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)4 原⼦周波数標準

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