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2.2光格子内中性分子の振動遷移周波数精密計測の可能性一般的に二原子分子の振動回転遷移周波数は片方の原子が軽いと高くなり、精密計測に有利である。今回は、核スピンがゼロである2族原子偶数同位体Xと、レーザー冷却可能な原子で最も軽い6Li原子を結合させて生成されるX6Li分子について検討する。X6Li分子のX2Σ(v,N,J,F,M) = (0,0,1/2,3/2,±3/2)-(1,0,1/2,3/2,±3/2)遷移は表1に示すように4~6THz領域の標準になると考えられる。ここでX2Σは分子軸方向の電子軌道角運動量がゼロで電子スピン縮重度2(電子スピンS = 1/2)の電子基底状態を表し*1、v、Nは振動、回転量子数である。Jは回転―スピン結合状態でJ = N + Sで表わされる。Fは超微細構造でF = J + I (I: 6Li核スピン=1)である。MはFの磁場方向への射影成分である。 X6Li分子を極低温状態で得るには極低温状態のXと6Li原子を光結合、またはFeshbach共鳴で結合させる[15][16]。生成された分子はRaman遷移によって(v,N) = (0,0)状態に局在化できる。光双極子力でトラップされた分子の遷移周波数はトラップ光によるStarkシフトを受けるが、そのシフトはトラップ光周波数に依存するため、魔法周波数と呼ばれる周波数ftを選べばゼロにすることができる。図1に、174Yb6Li分子を23 kW/cm2の光でトラップしたときにX2Σ (v,N,J,F,M) = (0,0,1/2,3/2,±3/2)-(1,0,1/2,3/2,±3/2)遷移周波数に与えるAC StarkシフトをA2Π、A2Σ、B2Σ (分子軸方向の電子軌道角運動量が0,1の状態をΣ, Πで表わす。上添え字は電子スピン縮重度を表し、それが2の場合はスピンが1/2を示す。決まった電子状態を持つ電子励起状態のうちエネルギーが低い準位からΑ, Β...と表わす)状態との結合を考えてトラップ光周波数の関数として計算した結果を示す。電子遷移に共鳴する周波数領域では魔法周波数の解は多く存在するが、実際に計測で利用するトラップ光周波数は魔法周波数からの微小ずれに対して誘起されるAC Starkシフトが小さいことが求められる。トラップポテンシャルの深さが10µKになるトラップレーザー光強度密度においては、トラップ光周波数が魔法周波数から1MHzずれた時のStarkシフトが10–14よりも小さくなる解を174Yb6Li、88Sr6Li、40Ca6Li分子について表1に示す。X2Σ (v,N,J,F,M) = (0,0,1/2,3/2,±3/2)-(1,0,1/2,3/2,±3/2)遷移は一光子禁制*2であるため、二光子遷移で観測されるが、2本のレーザー光を用いるRaman遷移では1本が正の、もう1本が負のStarkシフトを起こす組合せを用いればAC Starkシフトを受けない遷移を観測することができて好都合である。Zeemanシフトは厳密に線形であり、その係数は10–16/Gよりも小さくなると見積もられる。M = ±3/2 − ±3/2遷移周波数を平均するとZeemanシフトは完全に除去できる。黒体輻射によるシフトは300 Kの温度で10–16程度であり、分子周辺を±5 K程度で安定化できれば17桁の安定度を期待できるので特別な真空チャンバーの温度安定化は必要とされない。以上から、X6Li分子はテラヘルツ量子標準として有望と考えられるが、現在のところは極低温の174Yb6Li、88Sr6Li、40Ca6Li分子生成にはまだ成功していない。一方、6Liのようにレーザー冷却はできないが19Fは核スピンが1/2なので、X19F分子も超微細構造が単純になる点で状態選別が容易であるので検討に値する。特に、最近ではX19F分子のレーザー冷却の成功例が見られるようになり、40Ca19F分子については3D図1174Yb6Li 分子に23 kW/cm2の強度密度の光を照射したときにX2Σ (v,N) = (0,0)-(1,0) 遷移周波数に与えられるStarkシフト。表1に示された魔法周波数を×で示す。表1X2Σ (v,N) = (0,0)-(1,0) 遷移周波数fL、Starkシフトがゼロになる魔法周波数ft、トラップ深さが10 µKになる強度密度P、周波数ft及び強度密度P(10 µK)におけるStarkシフトfSのトラップレーザー周波数fに対する勾配¦dfS/df¦fL(THz)ft(THz)P(10 µK/ (kW/cm2))¦dfS/df¦(/MHz)174Yb6Li4.17273.0129.0 ×10–16281.8102.5 ×10–15361.4175.8 ×10–1788Sr6Li5.06313.5111.1 ×10–1540Ca6Li5.77268.9111.0 ×10–16*12Σが分子軸上の電子軌道角運動量ゼロ、電子スピン重率2(電子スピン1/2)の電子状態を示す。斜体で示されているXは電子基底状態、決められた電子状態を持つ電子励起状態のうち低い順にA、B、C状態で表わす。*2電荷分布の偏りを球対称な2準位の波動関数の積で積分して得られる電気的多重極子の行列要素がゼロ1294-7 テラヘルツ周波数標準

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