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= || ) ] (2)になる[27]。ここで、E0はレーザー電場振幅で、レーザーパワーをP0、ビーム断面積をSとすると= と書ける。J+1準位のエネルギー変化ΔEJ+1も同様に考えることができるので、Stark効果によるJ+1←J遷移周波数の変化ΔνSは、()= = ()()−))(3)から計算できる。例えば、レーザー出力を1 mW、ビーム直径を1mmとしたときのJ=27←26遷移のStarkシフトは約1mHzになる。一方、Zeeman効果に関しては、通常CO分子の電子は1Σ状態にあるため、電子雲の回転によって生じた磁気モーメントと分子核の回転による磁気モーメントは大きさが同じで逆符号となるために打ち消し合い、Zeeman効果は考えられない。また、CO分子の核スピンI=0なので、外部磁場と核磁気モーメントとの相互作用によるZeeman効果もない。しかしながら、分子核の回転に対して電子雲が追従しないという古典的描像に対応するslip効果まで考えると[27]、その結果として磁気モーメントが発生することになり、Zeeman効果を考慮する必要が生じてくる。一般には、slip効果によるZeemanシフトの解析計算は困難であるが、COのような直線分子の場合には計算が容易になり、Zeeman効果によるJ準位のエネルギー変化はΔΕ() ( −∑ ) (4)になる。ここで、μ0はボーア磁子、meは電子質量、N及びNsは1Σ軌道の電子数と核電荷の有効数量、re及びrsは分子の重心から1Σ軌道までの距離とそれぞれの核までの距離である。また は分子角運動量の磁場H方向への射影成分(磁気量子数M)に比例する。CO分子の場合、J準位はkHz/G程度の変化を生じるが、遷移周波数は上下準位の差になるのでΔM=0遷移ならばZeemanシフトはゼロになる。ただし、電子雲の遠心力歪みの影響が回転エネルギーに対して相対的に10–6程度で現れてくることを考慮するとΔM=0遷移の場合でもmHz/G程度のZeemanシフトは生じる可能性がある[28]。分子の非弾性衝突も周波数シフトの要因になる。この衝突シフトΔνcはΔνc=NB v σS/2πとなる。ここで、NBは分子密度、vは分子の平均速度、σSは衝突断面積である。分子の衝突シフトの解析計算は難しいが、CO分子の衝突シフトは実験的に–30kHz/Torr以下になると見積られる[29]–[33]。様々な要因による周波数シフトの影響と入手可能なTHz光源の発振周波数を検討した結果、J=27←26の純回転遷移周波数を参照基準に決定した。この遷移周波数は、波長可変遠赤外分光計を用いて3097.90936(17) GHzと測定されている[34][35]。CO分子のJ=27←26回転遷移の主な性質を表2にまとめておく。3.1.2CO安定化3.1THz量子カスケードレーザー図5はCO分子安定化3.1 THz量子カスケードレーザー(THz-QCL)の実験配置図である。光源はLongwave Photonics社製のDFB型THz-QCLであり、出力2 mW、直線偏光で単一周波数発振する。レーザー反転分布を達成するために、能動振動防振機能の付いたStirling冷凍機を使って約50 Kの低温状態にして動作させる。発振周波数は約3101 GHz (@50 K)であり、レーザー温度またはレーザー電流を変化させることで、発振周波数の変調が可能である。ただし、レーザー温度の範囲は、下限については冷凍機の冷却性能、上限についてはTHz-QCLの発振条件によって制限されており、さらにレーザー電流の可変範囲についてもTHz-QCLの出力特性に依存するため、両者を組み合わせたとしても変調範囲は2 GHz程度しかなく、我々の用途には不十分であった。そこで、レーザー周波数の掃引幅を更に拡張するために、気体コーティング法を採用した[39][40]。気体コーティング法は、低温状態のレーザー表面に気体を凝結させることで、実効レーザー共振器長を伸ばして、発振周波数を低周波側へ連続的にシフトさせる手法である。しかも、この手法はレーザーに損傷を与えることなしに繰り返し適用することができる。最初の気体コーティング法に関する報告では窒素ガスが採用されたが、我々は窒素よりも高い昇華温度を持つ二酸化炭素(CO2)ガスを利用した[41]–[43]。実際の手順としては、ターボ分子図5CO分子安定化3.1 THz量子カスケードレーザーの実験配置図THz-QCL: テラヘルツ量子カスケードレーザー、BS: ビームスプリッター、FMB Detector: フェルミレベル制御バリアダイオード検出器。1334-7 テラヘルツ周波数標準

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