だ2019年以降は2、4、6月と2か月ごとに調整がなされている。TAI校正の結果は翌月に評価されるが、仮に先月のTAI秒がSI秒からずれていたとしてもTAIの過去値を遡って修正はしない。またTAIの周波数安定度を維持するために急激な補正も行わない。そのためTAIの歩度のずれは後追いで徐々に打ち消していくことになる。それに対しBIPMは、よりSI秒に即した時系としてBIPM地球時TT(BIPMxx)も報告している(“xx”は計算に使用した全データの最終年の下2桁。2016年までのデータによるBIPM地球時はTT(BIPM16))。これは、毎年1月頃に前年までの一次及び二次周波数標準によるTAI秒の校正履歴を基にTAIを修正した時系である。BIPMによれば、「TT(BIPM)is a realization of Terrestrial Time as defined by the International Astronomical Union」[11]と記述されており、この標準時系は、後処理の時系ではあるが、我々の持ち得る最大限の素材と解析方法を使って妥協無く計算し、その時点で我々が知り得る最もSI秒に則した間隔で時を刻む理想的な時系ということになる。そのため、近年急速に発展した光周波数標準のSI秒に基づく周波数(絶対周波数)測定(NICTのSr光格子時計NICT-Sr1の絶対周波数測定については文献[12])や、自転周期の驚異的な長期安定性で注目されるミリ秒パルサーの周期計測[13]、生成した高精度な時系(NICT-Sr1に基づく高精度時系生成については文献[14][15])を評価する際など、精度が要求される学術目的に主に利用されている。標準時系は、現示精度の観点から以下の階層をなしている。A. BIPM地球時TT(BIPMxx)一次及び二次周波数標準によるTAI秒の校正データをフルに活用して、BIPMが1年に1度算出する正確な標準時系。2012年からは不確かさは2×10-16程度[16]。主に学術目的に利用される。B.国際原子時TAI、協定世界時UTC世界中から集結した原子時計データを用いてBIPMが毎月計算する国際的な標準時系。2013年以降の不確かさは2×10-15以下[16]。UTCは各国の標準時の基準として利用される。C.機関kが生成する標準時系UTC(k)各機関独自の方法で生成するUTCを現示した実信号の標準時系。常時配信され、産業と社会の基盤となっている。UTC(NICT)の場合は、不確かさは4×10-15程度[9]。この次に位置するのが、各企業、団体、個人の時計の時系であり、その不確かさは様々である。あとがき四次元基準座標系は、概念的な定義である“refer-ence system”とそれを現示する“reference frame”に分類される。特に、基準座標系の時間部分である時系は、概念的な“time system”とそれを現示した“time scale”に区別される。本稿では、四次元時空座標系を概説し、現在利用されているtime systemであるTCB, TGC, TDB, TDT, TTの関係を紹介した。そして現在の標準時系TTを基にしたtime scaleであるTT(BIPMxx), TAI及びUTC, UTC(k)の現示精度に基づく階層を示した。近年の光周波数標準の進展は目覚ましく、既に現在のSI秒を現示するセシウム原子時計の性能を凌りょう駕がすることが明らかになってきた。これを受け国際度量衡委員会CIPM(Comité International des Poids et Mesures)傘下の時間・周波数諮問委員会CCTF(Co-mité Consultatif du Temps et des Fréquences)*8では、セシウムのマイクロ波遷移から、光周波数標準を実現するいずれかの原子の光学遷移に基づく秒での再定義を検討している[17]。2018年秋に開催された第26回国際度量衡総会CGPM(Conférence Générale des Poids et Mesures)*9において、SI基本単位のうち、キログラム、アンペア、ケルビン、モルの4つの単位が再定義され、翌2019年5月20日に発効したことは記憶に新しい[11]。秒は他のSI基本単位に比べて圧倒的に高い精度で定義を現示しているうえ、SI基本単位のほとんどは時間・周波数に関係付けられていることから、時間・周波数標準は科学技術の根幹を成していると言える。そして今、この定義が更に高精度に現示できる定義へと変わろうとしている。この新しい定義に基づいた国際標準時系の現示方法や維持については、今後具体的に検討されることになるだろう。5*8国際度量衡委員会CIPM傘下の時間・周波数諮問委員会CCTFCIPMはメートル条約に基づく活動を行うための実行団体。CGPM*9で選出された最大18名の委員から構成され、毎年の会合を持つ。測定単位の世界的統一を確保することが主な使命[26]。CIPMは物理量の種類に応じて10個の諮問委員会から成る。時間・周波数諮問委員会CCTFはそのうちのひとつで、前身が秒の定義のための諮問委員会CCDS。諮問委員会には、担当する分野で国際的に行われる業務を調整し、CIPMに単位に関する勧告を提案する責任がある[26]。*9国際度量衡総会CGPMメートル条約全加盟国の政府代表から成り、4年ごとに会合を持つ[26]。早くて2026年のCGPMでの決議が想定されている秒の再定義については、まず、CCTFで十分な技術的検討がなされたうえで、CIPMに助言を行い、さらにCIPMが勧告を出したうえで、CGPMで決議される。8 情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)2 現示精度に基づいた標準時系の階層
元のページ ../index.html#14