ポンプを使って圧力を10–5Torr以下に維持した真空槽内に、圧力調整バルブを利用しながらCO2ガスを約1Torrになるまでごく短時間の間だけ注入することを数10回ほど繰り返した。CO2ガスコーティング法によるTHz-QCLの周波数シフトの結果を図6に示す。CO2ガスコーティング一回あたりで約−75 MHzの周波数シフトが生じ、この方法とレーザー温度変調を組み合わせることで、目標周波数でのレーザー発振を実現できた。窒素ガスとは異なり、CO2ガスを利用すれば、レーザー温度が50Kを超えても気体コーティング法を採用できる。THz-QCLから出射したTHz波はペリクルビームスプリッタ―で分割され、透過ポート(90%)は絶対周波数計測に使用し、反射ポート(10%)は周波数安定化に利用した。絶対周波数計測には超格子(Superlattice: SL)ハーモニックミキサーを利用して、マイクロ波標準とのヘテロダインビート計測を行った[44][45]。低雑音RFシンセサイザーからの約11.7GHzの信号をGaAsショットキーダイオード(VDI社WR6.5AMC-I)で12逓倍することで約141GHzの信号を生成し、それをSLハーモニックミキサーに入力することで、141 GHz信号の第22高調波とTHz-QCLとのRFビート信号を取得した。THz-QCLの周波数安定化に必要な制御信号は、周波数変調分光法で取得した。変調周波数は33.7 kHzで、レーザー電流に変調信号を直接印加した。ガスセルの長さは30 cmで、ビューポートには厚さ1 mmのテフロンをブリュースター角で取り付けている。COガスの圧力は制御信号SN比と吸収スペクトルの圧力広がりを考慮して、2Torrに設定した。ガスセルを透過したTHz波を常温動作可能で高速・高感度なフェルミレベル制御バリアダイオード検出器で検出し[46]、その出力信号を変調周波数で復調することによって、吸収スペクトルの1次微分を制御信号として取得した(図7)。この制御信号をサーボ回路で増幅した後、レーザー電流にフィードバックすることで、レーザー周波数をCO吸収線のピークに安定化している。3.1.3周波数安定化THz量子カスケードレーザーの性能評価SLハーモニックミキサーに入力された141 GHz信号の第22高調波とTHz-QCLとのRFビート信号スペクトルを図8に示す。RFスペクトラムアナライザーのmax-hold機能を使って測定したとき、フリーラン時のスペクトル線幅はStirling冷凍機の振動に起因し図7 CO分子の回転吸収スペクトル(右)とその1次微分信号(左)図6気体コーティング法によるTHz-QCLの発振周波数の変化。スペクトルの上に書かれた数字は気体コーティングの回数を示している。134 情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)4 原⼦周波数標準
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