た周波数ジッターの影響で約25 MHzに広がっている。一方、THz-QCLをCO分子の吸収線に安定化すると、この周波数ジッターは抑圧され、ビート線幅は約6MHz程度に狭窄化された。このときの周波数安定化ループの制御帯域は1 kHzで位相余裕は65度であった。THz-QCLのアラン分散を図9にプロットした。これはゼロデットタイム周波数カウンター(Pendulum社CNT-91)で測定されたビート周波数から計算した。フリーラン時のアラン分散は平均時間1秒から周波数ドリフトの影響が表れており、1000秒では4.4×10–6になっている。これは1.9×104 Hz/sのドリフト率に相当する。周波数安定化を行うことでドリフトの影響は軽減され、平均時間10秒でのアラン分散は5×10–9を達成した。周波数安定度が長期で低下する原因については、THz-QCLの電流フィードバックによる周波数–強度結合の影響と考えられており、3倍波復調で制御信号を取得するか強度信号との差動検出を行うことで改善できると期待している。その結果として、絶対周波数の決定における統計的不確かさを十分に減少させて、現在入手可能な商用のTHz測定器を校正するために十分な周波数確度7~8桁程度を持つテラヘルツ標準器として動作させることを目指している。3.2光差周波発生による高精度テラヘルツ連続波発生システム発振周波数が少し異なる2本のレーザー光(ω1, ω2)の光混合(Photomixing)により、その周波数の差(ω1-ω2)に相当する電磁波を発生させる手法は昔からよく知られており、THz帯の連続波発生においても差周波数がTHz帯の周波数離れている2本の連続光を非線形素子に照射し、光混合によりTHz帯の連続波を発生させることが可能である。この手法において、発生させるテラヘルツ連続波の精度は、その元となる2本のレーザー光の周波数の差がどのくらい精度良く決定されているか(2本のレーザー光の周波数間隔がどのくらい一定か)に大きく依存している。3.2.1光コムの発振モード選択とテラヘルツ連続波発生周波数間隔が精度良く制御されている2本のレーザー光として、光コムの2つの発振モードを利用する方法が考えられる。光コムは、スペクトルモードが離散的かつ等間隔に並んで発振しているレーザー光源であり、フェムト秒(fs)モード同期レーザー型の光コムでは、その発振モードは数THz以上に広がり、繰り返し周波数(モード間隔)が一定に揃っているだけでなく、それぞれの発振モードの位相も制御されている。このような発振スペクトルが数THz以上広がっているレーザー光源のうち、任意の2本のモードのみを選択的に取り出すことができれば、THz周波数離れ、その間隔が制御された2本のレーザー光を用意することができる。また、取り出す光モードの選択次第で2本のレーザー光の周波数間隔も変えることができ、結果として発生したテラヘルツ連続波の周波数も変化させることが可能となる。この手法で課題となるのは、fsレーザー光コムの場合、モード間隔はそのフリースペクトルレンジに依存して100 MHz~1 GHz程度と狭いため、パスバンドが数GHz程度と広い典型的な干渉型光バンドパスフィルターでは、取り出したいモードの周辺のモードまで同時に多数切り出してしまい、差周波発生の過程で、シングルモードではなくマルチモードのテラヘルツ波になってしまうことである。そこで今回我々は、誘導ブリルアン散乱(Stimulated Brillouin Scattering)を利用した狭帯域フィルタリング手法を採用し、数万本存在する発振モードの中から任意のモード2本のみを取り出すことを可能とした。図8CO分子安定化3.1THz-QCLと141GHz信号の第22高調波とのRFビート信号スペクトル。フリーラン時(青)、ロック時(赤及び緑). 青線と赤線のプロットはスペクトラムアナライザーのMax-hold機能を使用して測定。図9CO分子安定化THz-QCLの周波数安定度。青線はフリーラン時、赤線は周波数安定化時のアラン分散。点線は0.1秒サンプリングデータ、実線は1秒サンプリングデータから計算。1354-7 テラヘルツ周波数標準
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