れ、0.3 THz帯において1×10–11の測定精度を達成している[54]。ドイツ物理工学研究所(PTB)では、THzコムの周波数安定化を行うことなしに、巧みな演算処理を駆使することで、0.1 THz信号を精度10–14で測定することに成功した[55]。このようなTHz周波数計測器が開発される一方で、計測そのものを研究対象とする計量学的観点からは、THzコムの測定限界を押さえておくことが重要となる。ここでは、我々が実施した2台のTHz周波数カウンターの比較による限界性能の評価実験について説明する[56]。4.1.1周波数比較法の原理周波数標準器の性能評価における有力な手法として、2台の標準器の出力値を相互比較する周波数比較法がある。この周波数比較法は測定器一般の評価においても有効であるため、例えば光コムの計測精度を確認する際にも利用されてきた[57][58]。我々は、この方法を採用し、THzコムを用いた周波数カウンターの評価を行った。フェムト秒(fs)モード同期レーザーから出射した超短パルス光をPCAに照射すると光伝導効果による光キャリアTHzコムが発生する。このTHzコムは光コムのm, n番目のモードの光差周波として発生するため、本質的にcarrier-envelopeオフセット周波数がゼロになり、THzコムのk番目のモードの周波数() は、()=−=(n−m) =k (5)と書ける。ここで、frepはfsレーザーのパルス繰り返し周波数、k, m, nは整数である。したがって、fsレーザーのfrepをマイクロ波標準に安定化することでTHzコムを構成する全モードが安定化される。発振周波数fcwのTHz連続波をPCAに照射すると、THzコムのk番目のモードとのヘテロダインビート信号fbeatが得られる。このときfcwは、=k ± (6)と書ける。kとfbeatの符号の決定方法については文献[59]に譲り、ここではkは既知でfbeatの符号は正であると仮定する。独立した2台のTHzコムを使って測定されたTHz連続波の周波数は、=k + (7)=k + (8)となる。ここで、添え字1, 2はそれぞれのTHzコムに対応している。原理的にfcw1 = fcw2となるため、これらの残差周波数δfは測定時に付加されたTHzコムからの寄与とみなすことができて、δ=k −k +δ (9)となる。ここで、δfbeat = fbeat2 – fbeat1と定義した。fsレーザーを共通にすれば、式(9)は更に簡単になり、δ=δ (10)となる。よって、2つのビート周波数差を計測すれば、THzコムの計測限界を精査できることがわかる。4.1.2周波数比較法のための実験システム図18は、THz周波数カウンターの性能評価のための実験配置図である。被測定信号は周波数0.3 THz、出力2 mWのTHz連続波を用いた。これは低雑音RFシンセサイザーA (Agilent ESG-D4000)からの16.7 GHz信号をショットキーダイオードの非線形性を利用した18逓倍器(Virginia Diode)に導入することで発生させている。このTHz波を高抵抗シリコン(Si)ビームスプリッタ―(HRFZ-Si)で2分割し、2台のPCA(Hamamatsu G10620-12)に自由空間で結合させた。PCAには超半球Siレンズが付属しており、照射されたTHz波をアンテナ上に効率よく集光できるようになっている。アンテナパターンは1THz以下で比較的高い結合効率を持つボウタイ型で、それが低温成長ガリウムヒ素(LT-GaAs)基板上に配置されている。fsレーザーには平均出力2 W, パルス幅83fsのYbファイバーモード同期レーザー(Menlo Sys-tems Orange A)を採用した。このレーザーのfrepは250MHzであるが、それを安定化するための位相同図18周波数比較法によるTHz周波数カウンターの性能評価のための実験配置図PCA: photoconductive antenna; LNA: low-noise amplier; BPF: band-pass lter; HRFZ-Si BS: silicon beam splitter; ⁄ : half wave plate; PBS: polarizing beam splitter; DBM: double-balanced mixer; and PZT: piezoelectric transducer. The part of the system enclosed by the dotted line was set for evaluation of the measurement precision. 参考文献[56]より転載。140 情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)4 原⼦周波数標準
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