せるために、波長1.5μmのErファイバーfsレーザーからの超短パルス光をPCAに照射した。このパルス光のfrepは100MHz、パルス幅55fs、平均出力は50mWである。1.5μm光の二光子吸収プロセスを利用することで、LT-GaAs内に光電子を励起させるのに十分なエネルギーを獲得した。0.3 THz波とTHzコムとの混合で発生した光キャリアビート信号() を、トランスインピーダンス増幅器を使って電流–電圧変換した後、DDS発振器からの60kHz信号とデジタルミキサーで位相比較することで、fbeatの位相同期に必要な制御信号を取得した。() のSN比は分解能100 Hzで約45 dBである。制御信号はfsレーザー共振器長を変調するためのピエゾ素子にフィードバックした。この位相同期ループの制御帯域は約1.5 kHzであり、相対安定度は3×10–14/τある(図24(c))。このとき、fsレーザーの別ポートからの出射光をファイバー結合型高速フォトディテクターで受光し、得られたRFコムの第10モードを中心周波数1GHzの狭帯域BPFで切り出した。この1 GHz信号は、0.3THz波を3000分周してfrepまでダウンコンバートした後、さらに10逓倍することで発生させたことに相当している。4.2.3テラヘルツ分周器の性能評価開発したテラヘルツ分周器の性能を周波数合成して得られた1 GHz信号の周波数安定度及びSSB位相雑音から評価した。図24(a)に1GHz信号のアラン分散を示す。これは、RFシンセサイザー2からの信号とDMTD法で比較することによって計測した。得られた安定度は2×10–13/τで、平均時間300秒で10–16台に到達している。RFシンセサイザー1と2の比較から、現在の安定度はそれらの周波数雑音が支配的であることが分かった(図24(b))。1GHz信号のSSB位相雑音スペクトルを図25に示す。これは、1 GHz信号をRFシンセサイザー2からの信号とダブルバランスド・ミキサーを使って位相比較することで測定した。1 GHz信号のSSB位相雑音レベルは、キャリアから100 Hz及び10 kHz離れた帯域にで、それぞれ−105 dBc/Hz及び−133 dBc/Hzである。この雑音レベルはフィードバック制御の位相余裕に起因する2 kHz付近のピーク雑音を除けば、RFシンセサイザー1のもの(図25(b))とよく一致しており、分周プロセスで重大な雑音は印加されていないことが確認され、テラヘルツ分周器の動作が実証された。テラヘルツ周波数基準伝送THz基準周波数をユーザーに供給できれば、遠隔周波数校正への道が開かれる。また、THz帯に数多く存在する分子の吸収スペクトル(指紋スペクトル)の精密分光への貢献も期待できる。だが、大気中の水蒸気による強い吸収に阻まれて、THz波の長距離空間伝搬は困難である。ここでは、NICTで開発された2つのテラヘルツ周波数伝送法について説明する。5.1光差周波THz発生を利用したテラヘルツ基準信号伝送とその応用5.1.1ファイバーリンクを用いた基準信号伝送とその性能評価 3.2では、光コムの任意の2本のモードを、ファイバーブリルアン増幅を利用して選択的に取り出し、光混合による高精度なTHz連続波を発生させるシステムについて紹介した。その際には、光ファイバーとして50 kmのファイバースプールを使用したが、誘導5図23 THz-マイクロ波シンセサイザー(テラヘルツ分周器)の実験配置図PCA, photoconductive antenna; LNA, low-noise amplifier; PD, photodiode; BPF, band-pass filter; PZT, piezo-electric transducer; and DDS, direct digital synthesizer. 参考文献[60]より転載。図240.3 THz連続波から周波数合成された1 GHz信号の周波数安定度(a)と fbeat位相同期ループの安定度(c)比較のための2台のRFシンセサイザーの周波数安定度(b)。参考文献[60]より転載。1434-7 テラヘルツ周波数標準
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