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なり、またfTHz1=fTHz2だから、式(16)は= − (−++−) (17)と簡単化され、さらに右辺第2項のカッコ内はゼロになるので、fbeat4=210 kHzになる。このfbeat4の絶対周波数及び安定度を測定することで、開発したTHz伝送システムの評価が可能となる。5.2.3位相コヒーレントTHz周波数伝送の性能評価図31下(a)はTHz周波数伝送システムのアラン分散である。平均時間τ=1秒でσy(τ)=2.6×10–14から始まり、3000秒で10–18台に到達している。この安定度が1/τ依存性を持つことから、伝送システムは位相コヒーレント条件で動作していることが分かる。位相揺らぎの相関関数から位相コヒーレンス度を計算すると[67]、その値が99.88%となることから、THz標準の持つ位相情報は長基線ファイバーで伝送した後にも、ほとんど劣化せずに復元できることが確認された。また、このシステム安定度はTHz–光シンセサイザー(図31下(c))で制限されている。fbeat4からオフセット周波数210 kHzを減算した結果を図31にプロットした。その時系列データを1000点からなる54個のデータセットとして計算された平均周波数と標準誤差はそれぞれ1.2 μHzと1.3 μHzである。fTHz=0.3 THzで規格化されたオフセットと不確かさに換算するとそれぞれ4.0×10–18と4.3×10–18になる。このような伝送精度を持つシステムはユーザーの所有するTHz分光器などをファイバーリンクにより遠隔校正するなどといった実務的な応用にとどまらず、2で説明したようなTHz分子時計の精密比較にも採用でき、基礎物理定数の時間変化の検出やパリティ対称性の破れの検証などの科学的な波及効果への貢献も期待される。なお、本実証システムの全てのRFシンセサイザーとDDS発振器は共通の水素メーザーを外部基準として動作させており、ローカルサイトとリモートサイトが長距離離れた現実の状況を考慮していないが、各シンセサイザー等の周波数安定度が10–11台ならば伝送精度は10–18レベルになることが計算で求められるので、例えば、市販の温度安定化水晶発振器を外部基準とすることで十分な性能を実現することが可能である。まとめ電波と光の中間にあるTHz領域は未開拓周波数帯と呼ばれてきた。しかしながら、THz領域の持つ特質が多分野におけるブレイクスルーの原動力になることが理解されるにつれ、この領域を貴重な周波数資源として有効活用していくために必要不可欠なTHz周波数標準の確立が期待されている。本稿では、これまでにNICTで実施されてきたTHz周波数標準の研究について解説してきた。CO分子安定化THz光源は7桁の精度を目標として開発を推進中であるが精密分光技術を共通軸として、理論段階にあるTHz分子時計への展開も期待される。他方、光差周波THz基準は既存の周波数標準器との常時リンク環境を確保できるならば、非常に高精度なTHz基準周波数グリッドを供給できる。標準器の進歩と双対関係にあるTHz計測技術については、THzコムを用いることで17桁の計測精度が確認された。ただし、帯域1THz以上での精度は未確認であり、今後の広帯域化は必須である。THz周波数基準の供給も国家標準機関の重大な責務であるが、既に2つのTHz周波数伝送法を提案・実証しており、将来のTHz基準信号の配信と遠隔校正サービスに対する一定の回答を与えている。標準技術の開発と並行して重要となるのが、標準化に向けた活動である。これについては、国際情勢、産業界の取組や政策的な動向を踏まえつつ、世界に先駆けてTHz周波数校正の業務手順を確立するなどして、NICT発の世界的なデファクトスタンダードの獲得も視野に入れていくべきであると考える。本解説は、2を梶田、3.1及び5.1を熊谷、その他を長野が執筆を担当した。謝辞本研究を実施するにあたり様々な場面でサポートしてくださったテラヘルツ研究センターテラヘルツ連携6図310.3THz発振器(THz周波数標準)とpc-THzコム2(伝送されたTHz基準信号)とのビート信号fbeat4の時系列データ(上)、及び位相コヒーレントTHz伝送システムのアラン分散参考文献[62]より転載。148   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)4 原⼦周波数標準

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