【NICTにおける初期のVLBI時間周波数比較研究】NICTでも、2007年頃からVLBI時間周波数比較の検討を開始、まずKSP観測網のデータ解析による精度評価を行った[31]。24時間観測の解析であったため、長期安定度の評価はできなかったが、平均化時間6時間で10-15台の安定度という結果を得た。その後、IVSデータベースのデータを用いた大陸間での解析や、鹿島–小金井間での解析結果を踏まえ、従来の観測でも10-15乗台のVLBI時間周波数比較が可能であることが確かめられた[32][33]。これらの検討において、同一の電波源を追尾する手法が従来の測地VLBI観測よりも更に周波数安定度を向上させた比較が可能であることも示された[32]。また、Hobiger らは、CONT11観測及びVLBIに併設のGPSデータを宇宙測地統合解析ソフトウェアC5++で処理することにより、VLBIやGPS単独での周波数比較結果より安定度が向上することを示した[34]。【NICT–NMIJ周波数比較実験[35]】さらにNICTでは、世界各国での標準機関において将来VLBI時間周波数比較を簡便に行うことを念頭に、広帯域受信系を搭載した超小型アンテナの開発に着手した。まず、2014年3月にX帯受信系を搭載した超小型アンテナを産業技術総合研究所計量標準総合センター(NMIJ/つくば市)及びNICT本部2号館屋上(小金井市)に設置し、実験を開始した。その後、鹿島34 mアンテナへの広帯域受信系搭載(6.5– 15 GHzマルチモードホーン/2014年)、同受信系の改良版を鹿島34 mアンテナに搭載(3–14 GHzマルチモードホーン及び誘電体レンズ/2015年夏)、小金井局での2.4 m口径アンテナへの換装と3–14 GHz受信系の搭載(2016年)、NMIJ超小型アンテナ局での同様の改造(2017年)と開発の進捗に応じて順次改良を加えてきた。2017年までに実施した小金井・つくば間でのUTC(NICT)–UTC(NMIJ)の周波数比較実験において、VLBI-GPS差分の周波数安定度は3日平均で10-16台に達することが確認された。【日伊光格子時計比較VLBI実験】その後NICTでは、図1に示すように、INRIMのイッテルビウム(Yb)光格子時計とNICTのストロンチウム(Sr)光格子時計との間の周波数比較を目的として、2018年8月に超小型VLBI局をINAFメディチーナ観測所のVLBI局近傍に移設した。前述のように、INRIMとINAFは既に光ファイバーリンクで接続されており、これにより双方の光格子時計間でのVLBI周波数比較が可能となる。2018年10月以降、2019年7月現在までに10回以上の実験を実施してきており、現在データ解析中である[36]。時間・周波数計測と相対論的測地学一般相対論を背景に、時計を測地計測、特に重力ポテンシャル計測に応用する考え方は、“Chronometric leveling*7”という語でVermeerが初めて提唱した[37]。その後、Bjerhammarは、“高精度な時計が同一速度で時刻を刻む場所で計測された平均海水面をつないだ地表面”を相対論的ジオイド(relativistic geoid)と定義付け、これによる測地学的な概念を“Relativistic Ge-3図1 日伊VLBI時間周波数比較実験の概要*7適切な邦訳は無いが「時計式水準測量」とも言うべきか。1555-1 高精度時間・周波数計測と測地学
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