ences Union)総会や同じく今年モントリオールで開催されたIUGG等、複数の国際研究集会において多数の発表がなされている。とりわけ、光周波数標準の比較実験が盛んなヨーロッパのお膝元のウィーンで開催された今年のEGU2019において、PTBが積極的に発表を行っているのが印象的である[64]。ここで示した最近数年間の内外の研究動向については、前述のActa Futura誌のほかに、2018年発行のReports on Progress in Physics誌に掲載されたレビュー論文“Atomic Clocks for Geodesy [65]”及び今年(2019年)に発行されたSpringer社の論文集“Rela-tivistic Geodesy [66]”にかなりの部分が網羅されており、大いに理解の助けとなる。また、邦文では、測地学的観点から重力測定について記し、光格子時計との連携についても解説した3編の論文[45][46][67]が参考になる。3.3ACESACES(Atomic Clock Ensemble in Space)とは、欧州宇宙機関(ESA: European Space Agency)が計画するプロジェクトであり、NICTも参画している。国際宇宙ステーション(ISS: International Space Station)に超高安定の原子時計を搭載し、これを介して地球上の複数の標準機関で開発が進む光周波数標準の高精度周波数比較を行うことが主目的である。また、重力赤方偏移を含む一般相対論の検証等も重要な科学目的と位置付けられる[68][69]。測地学的観点から見た重力赤方偏移の観測は、10-17の不確かさでの周波数差計測により10 cmの精度でジオイド高の差が計測可能であることを意味し、前述のRelativistic Geodesyの一翼を担う形でACESプロジェクトの目的に含まれる。ACES搭載器のISSへの打ち上げは、当初は2016年中に予定されていたが、諸事情により延期を重ね、2019年7月現在、2020年夏頃の打ち上げ予定となっている。ACESプロジェクトでの核心的な実験機器は、ISS上のESA実験設備コロンバス(Columbus)に設置する2台の高性能原子時計、レーザー冷却セシウム一次周波数標準器“PHARAO (Projet d’Horloge Atom-ique par Refroidissement d’Atomes en Orbit)”及び衛星搭載用に開発されたアクティブ型水素メーザー原子時計“SHM (Space Hydrogen Maser)”である。PHARAOとSHMを組み合わせることで、ACESでは少なくとも1×10-16の周波数安定度が実現される予定である。これらの原子時計、地上の光周波数標準等との間での双方向周波数比較を実現するための専用地上マイクロ波送受信局(MWL: MicroWave Link)及び地上の光通信局とのリンク、軌道決定のためのSLR観測及び大気遅延補正に用いるELT(European Laser Timing)で全体の実験系が構成される。2019年現在、MWLはNICTのほか、PTB、パリ天文台時空標準機構(SYRTE: Sytèmes de Référence Temps Espace)、イギリス国立物理学研究所(NPL: National Physical Laboratory)、JPL(米)及びアメリカ国立標準技術研究所 (NIST: National Institute of Standards and Technology)の計6箇所に設置が予定されている。また、2基の可搬型のMWLも整備され、ドイツ連邦地図測量庁(BKG: Bundesamt für Kartog-raphie und Geodäsie)のWettzell/GGOS観測局、スイス連邦計量・認定局(METAS: Federal Institute of Metrology)、あるいはイタリアのINRIMに設置しての実験や校正観測に用いられる。ACESプロジェクトでは、ISS上の原子時計を介して各機関の光周波数標準から周波数信号を受けた各MWL間での周波数比較実験を行うが、従来のGNSSやTWSTFTを1桁ないしは2桁凌りょう駕がする比較が可能とされる。これを検証するために、実験開始までには後述するように、PTB、SYRTE及びNPL間のファイバーリンクも確立し、定常観測ができるようになる予定である[69]。ISSは軌道傾斜角51.6度、軌道高度400 kmの軌道を5,400秒で周回するが、欧州域内や米国本土内では共通可視域にあるISSを介した供視比較(Common view clock comparison)が可能である(図5)。しかしながら、大陸間をまたぐ距離、例えば欧州–日本間、あるいは欧州–米国間では、双方の機関の共通可視域にISSが入らないため、間接的なグローバル比較(Global clock comparison)となる[70]。なお、ACESプロジェクトでは、実験機器の打ち上げ後、約1年半程度の実験期間を想定している。まとめ元来、地球の大きさや形状、あるいは重力を測る学4図5ACES実験での大陸間時間周波数比較の概念図。左は大陸間比較、右は欧州域を例に取った共通可視域(供視法)での比較[70]。158 情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)5 時空標準計測・⽐較技術
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