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まえがき離れた場所に設置された原子時計を用いて時系を生成する場合、あるいは周波数標準の値の一致度を検証する場合に必要となるのが、時刻・周波数比較測定である。ヨーロッパ大陸では、光ファイバを使った超高精度周波数伝送や時刻伝送の研究が盛んに実施されている [1][2]。NICTにおいても約60 kmの光ファイバリンクにおいて実験を行っている[3]。しかし残念ながら、日本においては光ファイバの高額なレンタル費用がハードルとなっており、長基線での実験は実現されていないのが現状である。一方、世界に約300台存在するセシウム原子時計を用いて生成されている協定世界時においては、視野が広く大陸間の測定も可能となる、静止衛星経由及びGNSSなど測位衛星経由の比較法が用いられている。前者が本稿で扱う衛星双方向時刻・周波数比較(衛星双方向と略す)である。後者が衛星からの信号を受信して行う片方向方式であるのに対し、前者は地球局から信号を送受信する双方向方式である。片方向方式では信号の伝播経路上の幾何遅延や大気による遅延変動をモデルによって補正するのに対し、双方向方式では相対する地球局間の伝播経路が等しくなるためそれら遅延変動を相殺することが可能となる。結果として片方向方式より高精度な比較を可能とする。また衛星軌道の影響も相殺される。この衛星双方向方式は1970年代に実現され数ナノ秒という高い計測精度を達成した [4]。現在の協定世界時のための比較ネットワークではチップレート1MHzのコード位相による衛星双方向測定が行われ、その計測精度は約 0.5ナノ秒である。図1に典型的な衛星双方向地球局と時刻比較用GNSS受信機の構成を示す。衛星双方向では送信を行うことから、誤差要因が少ないことに反してシステムを構成する装置数が多く、システムが高額となる。また商用静止衛星を使用する場合、衛星回線のレンタル費用も必要であり、必要経費のうち衛星回線費が支配的である。このように衛星双方向ではGNSS比較と1図1 システム概略図(a) 衛星双方向地球局 口径2 m程度のパラボラアンテナが用いられることが多い。 HPA: High Power Amplifier, LNA: Low Noise Amplifier, U/C: Frequency Up Converter, D/C: Frequency Down Converter. (b) 時刻比較用GNSS受信機 アンテナ径は数十cm程度である。我々は遠距離間の時刻・周波数比較測定の精度向上を目標として、搬送波位相利用技術(TWCP)を開発し実験を行ってきた。またTWCP技術を実現するためモデムを新規開発し、海外機関との実証実験を開始した。新規開発したモデムを広く展開し比較測定の高精度化を進め、協定世界時の精度向上に貢献したいと考えている。We established Two-Way Satellite Time and Frequency Transfer using Carrier-Phase (TWCP) techniques aiming at the improvement of time and frequency transfer stability in long baselines. Additionally, a new TWSTFT modem has been developed to realize TWCP techniques. We have just started a demonstration by using the newly developed modem with an overseas institute. Our future goal is contribution to improvement of the Coordinated Universal Time by advance of time-transfer stability through distribution of the new modem.5-2 TWCP —搬送波位相利用衛星双方向比較—5-2TWCP — Two-Way Satellite Time and Frequency Transfer using Carrier-Phase —藤枝美穂 田渕 良 相田政則 後藤忠広Miho FUJIEDA, Ryo TABUCHI, Masanori AIDA, and Tadahiro GOTOH1615 時空標準計測・⽐較技術

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