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と比較し無視できるものとされ、通常では電離層遅延量補正は行われていない。しかしながら計測精度サブピコ秒のTWCPにおいては、電離層遅延量の補正が必要となる。電離層遅延量はそれぞれの地球局上空の電離層全電子数(TEC : Total Electron Content)を用いて計算可能であり、TECは日本のみ、ヨーロッパのみといったローカルなマップや全地球を網羅するマップなどから取得可能である。詳細は[17]を参照いただきたい。商用静止衛星では通常アップリンク周波数が13~14GHz、ダウンリンクが11~12GHzである。このため、式(1)の係数 ⁄4 は10-12台の数値となる。よって、搬送波位相が0.1 radianの精度で決定できれば、地球局A, Bの時刻差はサブピコ秒での計測が可能となる。2.2TWCPの計測精度図2にTWCPによる計測精度を示す。緑線以外が衛星経由の測定により得た結果である。青線は水素メーザー原子時計間の測定結果、黒線は日本とドイツの標準時間の測定結果であり、それぞれリファレンスとした信号そのものの長期安定度により制限されている。赤線はNICTにて行ったゼロベースライン、コモンクロック測定の結果でありリファレンスの安定度による制限は受けていない。緑線は室内機器(U/C, D/C, モデム)を同軸ケーブルで接続して測定した結果であり、室内に置かれた機器によるシステム雑音を示している。赤線と緑線の結果の比較により、1秒から1000秒平均までの周波数安定度については屋外機器(HPA, LNA)以降、アンテナから衛星間の伝搬経路上の何か、若しくは衛星のトランスポンダに用いられている周波数信号の短期的位相雑音など何らかによって、緑線で示すシステム雑音が赤線の結果まで劣化しているといえる。また赤線では1秒平均で10-14台の値となっているが、夏季に入るとこの値が10-13台となることがある。また気温の高い日中に値が上昇し、夜間に下降する現象も観測されており [17]、温度に依存する雑音が存在すると考えられる。TWCPのための衛星双方向モデム 1で紹介した協定世界時のための時刻比較測定では、測定システム内の遅延量を校正し絶対時刻差を導出することが求められる。その典型的な校正誤差は数ナノ秒である。1で述べたように衛星双方向において従来使われてきたモデムは搬送波位相を観測量として出力しなかったため、2で紹介した計測結果は汎用測定器を用いて得たものである。それら汎用測定器では誤差数ナノ秒での校正は不可能であった。我々はTWCP技術を広く展開するためには、搬送波位相による周波数比較もしくは相対時刻比較だけでなくコード位相による絶対時刻比較の双方が必要であると考え、モデムの新規開発を行った。搬送波位相は無変調信号を用いても計測可能であるが、無変調信号はフェージングなどの影響を受けやすいため、実際には疑似雑音(コード)による位相変調がかけられたスペクトラム拡散信号を使用する。モデム開発のポリシーは、1. コード位相と搬送波位相の双方の検出を可能にする、2. 信号に不要な位相雑音を重畳しない、3. できるだけデジタルデバイスを用いる、である。それらポリシーを実現するため、新規開発したモデムにおいては回路の製造コストがかからず、かつユーザーが柔軟に回路設計・変更可能なFPGAを利用した。これにより従来使われているモデムの約1/6の価格での市販化に成功している。図3にモデム構成図を、表1に諸元を示す。モデムの入出力周波数は70 MHzであり、周波数変換せず直接デジタル-アナログ変換(またはその逆)されている。FPGAとCPUのファームウェアは書き換え可能となっており、バグ修正や必要な機能追加を随時行うことができる。モデムの内部クロック周波数は外部から入力される10 MHz信号に位相同期する。モデムのタイミングの基準となる1 pps信号は外部から入力される1 pps信号に対し一定の遅延となるよう生成される。さらにその一部がモデムから出力され、ユーザーはその出力を用いてモデム内部の遅延量をモニタ可能である。コードのチップレートは協定世界時のための比較ネットワークで使用されている1 MHzを採用している。送信チャネル数は2であり、それぞれ独立に周波数、レベルを設定可能である。また内部遅延校正3図2 TWCPによる計測精度赤線はゼロベースライン、コモンクロック計測結果、青線はフランスパリ天文台(OP)–ドイツPTB間で行った水素メーザー原子時計比較結果 [18]、黒線はNICT–ドイツPTB間で行ったUTC(NICT)とUTC(PTB)の比較結果 [17]、緑線は衛星を使わず室内で周波数変換器をケーブルで接続して測定した結果であり室内機器によるシステム雑音を示す。 1E-171E-161E-151E-141E-131E+01E+11E+41E+50 km, Common-clock700 km, H-maser 9000 km, UTC(k)Indoor loop1E+21E+3Averaging time [s]1635-2 TWCP —搬送波位相利用衛星双方向比較—

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