まえがき各国の計量標準機関(National Metrology Institutek: NMI)が自国の標準時を維持し、秒の定義である国際原子時(International Atomic Time; TAI)に貢献するためには時刻比較は重要な要素となる。大陸間をまたいでの時刻比較には通信衛星を用いた衛星双方向時刻比較[1]や測位衛星を用いたGNSS(Global Navigation Satellite System)時刻比較[2]などが用いられる。高精度な時刻比較を実現するためには測量などで使用される汎用のGNSS受信機はそのままでは使用できないこと、測地、測量分野に比べて高精度なタイミング測定を必要とする利用者は極めて少ないことから、市販されている時刻比較に必要な装置は高価な物が多い。これはNMIがより高精度測定が可能な方式への移行を遅らせ、結果としてTAI高精度決定を阻む要因のひとつとなっている。通信分野においては、単体の端末で多様な通信方式に柔軟に対応するソフトウェア無線(Software De-fined Radio: SDR)[3]技術が注目を集めている。これまで通信用の機器などは、通信に必要な周波数と帯域に特化した専用のADC(Analog-to-Digital Converter)またはDAC(Digital-to-Analog Converter)と論理回路からなる専用ハードウェアで構成されていた。このため、信号の占有帯域や変調方式が変化した場合は、古い端末は新しい通信方式には使用できなかった。これに対して、SDRはサンプリング周波数や帯域をある程度自由に選べる汎用のADC/DACとデジタル信号処理を行うソフトウェアを組み合わせることで専用ハードウェアを不要とする技術である。SDRの考え方は、高価な装置を必要とした時刻比較分野において、安価な汎用のADC/DACと専用の信号処理ソフトウェアで専用ハードウェアと同様な測定を可能とするもので、高精度な時刻比較手法を普及させるのに適した方式である。情報通信研究機構(NICT)では、SDRの有用性に着目し世界で初めて時刻比較へ応用するための研究を開始した[4]。SDRを時刻比較へ応用する場合は、入力アナログ信号をデジタル信号へ変換する際のタイミングに注意する必要がある。一般的なSDRで用いら1時刻比較の分野では、市場規模などの問題から測定に使用する装置が高価となる傾向がある。そこで、汎用のアナログ・デジタル変換器とパソコンの組合せによるソフトウェア無線技術を用いることで、高価な専用装置を使用せずとも時刻比較を可能とする方式を考案した。時刻比較で処理するデジタル信号はある程度の帯域が必要となるため、ゲーム用に開発された画像処理ボードを用いることで処理時間の高速化を図り、実時間処理を可能とした。本稿では、開発した測位衛星による時刻比較用受信機と複擬似雑音方式による衛星双方向時刻比較の詳細について述べる。Global Navigation Satellite System (GNSS) or commercial communication satellite based time transfer is one of the important techniques for the determination of International Atomic Time (TAI). However, these types of equipment, which are commercially available for time transfer purposes, are far more expensive than commercially available geodetic receivers or communication satellite modems. We have been developing Software Defined Radio (SDR) based equipment for time transfer purpose. The equipment used inexpensive versatile analog-to-digital converter (ADC) and digital-to-analog converter (DAC), and most digital signal processing parts were done by a graph-ics processing unit (GPU) as a parallel computer. This paper describes the details of developed software GNSS time transfer receiver and Dual Pseudo random Noise (DPN) method.5-3 ソフトウェア無線と時刻比較5-3Time Transfer using Software Defined Radio Technique後藤忠広 雨谷 純Tadahiro GOTOH and Jun AMAGAI1675 時空標準計測・⽐較技術
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