波数128 MHzでアンダーサンプリングすることにより、L1帯は+39.42 MHzに、L2帯は-52.4MHzに、それぞれ中心周波数が変換される。サンプルされたデータを、ソフトウェア上で周波数帯を分離して処理することにより、それぞれのバンドの群遅延、搬送波位相を取得することができる。このシステムによる測定結果の例として、準天頂衛星が仰角20度から60度に動いた際の受信結果を示す。準天頂衛星は、L1にはC/Aコードの他にBOC(Binary Offset Carrier)であるL1CP符号も送信されている。図5はL2C信号とL1CP信号の群遅延の差を、図6に位相差の変化率を示す。仰角の増加に伴う伝搬経路中の全電子数の減少を反映した、群遅延差の減少(バンド間の群遅延差は補正していない)と正の位相差変化率がとらえられている。衛星双方向モデム4.1複擬似雑音信号ソフトウェア相関の利点のひとつとして、測距信号を柔軟に変更可能なことがあげられる。衛星双方向方式では地球局間の信号をやりとりするために商用の静止衛星を利用することから、運用会社から中継器を借りる必要があり、初期の設備投資以外に運用経費も発生する。中継器の借料は帯域幅に応じて値段が変わることから、高精度な比較のために広帯域な信号を用いると運用コストがかかることとなる。相関処理により求まる群遅延は、相互相関関数では相関ピーク位置の時間軸上でのずれであるが、相関スペクトルでは偏角の傾きから求まる。詳細については文献[8]に述べられているが、図7で示すように、単一の広帯域なPRN符号の代わりに、狭帯域でコヒーレントなPRN符号を周波数軸上で離れた点に配置することでも、広帯域なPRN符号と同等な観測精度が得られる。現在TAIの比較に使用されている双方向モデムの信号は帯域が1 MHzで、その観測精度は搬送波対雑音比(C/N0)が55 dBHzとしておよそ0.6 nsである。この半分の符号である500 kHz帯域を20 MHz離れた場所に配置すれば、その観測精度はおよそ15 psと理論上では40倍高精度な観測結果が得られる。NICT4図4 周波数変換を使用しないソフトウェアGPS受信機図6 図4の受信機で取得したL2C信号とL1CP信号の位相差の変化率図5 図4の受信機で取得したL2C信号とL1CP信号の群遅延の差図7 広帯域単一PRN符号と複擬似雑音符号の相関スペクトルイメージ170 情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)5 時空標準計測・⽐較技術
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