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ではこの信号を複擬似雑音(Dual Pseudo random Noise: DPN)信号と名付け、ソフトウェア相関器を用いたモデムを開発することで信号の有効性を実証した。4.2DPN用モデム衛星双方向方式では、原子時計に同期した自局の信号を相手局に送る必要があることから送信信号の作成も必要となる。送信信号はNICTでSDR用に開発した任意信号発生器(Arbitrary Waveform Generator: AWG)を使用して行った。AWGの諸元を表2に示す。AWGはサンプリングクロック204.6 MHzで、メモリ上に転送された8ビットデジタル波形をアナログ信号として出力するDACである。メモリは512 KBを2枚搭載しており、出力可能な波形周期は最大5 msである。DPN用の信号としては29 = 511ビットのM系列符号を使用し、チップ周波数は127.5 kHzとした。符号周期は4 msである。周回衛星に比べて、静止衛星経由ではドップラー周波数が変化しないことから、多重化による符号間干渉が群遅延決定精度の劣化原因のひとつと考えられている。そのため、衛星双方向方式ではできるだけ相互相関係数が小さい符号を選ぶことが望ましい。9ビットM系列符号には48通りの生成多項式が存在するが、このうちDPNでは相互相関係数が20%以下で、すべての相互相関係数の平均が最も小さい符号10個を時刻比較用の信号として採用した。ソフトウェア相関器の構成はGPS受信機(図3)で使用した方式とほぼ同じである。DPN信号をサンプリングする場合、周波数軸上の各信号を、アナログ信号の段階で狭帯域フィルターにより取り出し低レートのサンプリングでデジタル化する方式と、広帯域のまま2信号を同時にサンプリングする方式が考えられる。SDRで処理することを考えるとサンプリング周波数は低い方が望ましいことから各信号個別にサンプリングする方が有利に思われる。しかし、前節で述べたとおり、郡遅延は連続していると仮定された2信号の位相の傾きから求めるため、アナログ部で挿入したフィルターの位相特性によってはコヒーレント性が失われる可能性があり好ましくない。K5/VSSP32は最大64 MHzのサンプリング周波数に対応していることもあり、開発したモデムでは2信号を同時にサンプリングしデジタル部分でサンプリング点数を1/8に間引くことで実時間処理を実現した。広帯域信号のまま処理したことから、処理速度を得るためGPS受信機同様デジタル信号処理にはGPUを使用した。4.3時刻比較結果開発したDPNモデムの性能評価を行うため、試作機を2台準備し、1台を台湾の中華電信研究院(Tele-communication Laboratories: TL)の地球局に組み込み時刻比較実験を行った。DPN信号の評価では、終端のモデムのみ試作したDPN専用装置を使用し、Ku帯への周波数変換に使用するアップコンバータ、ダウンコンバータやパラボラアンテナなどは既存の地球局を使用した。図8に時刻比較結果を示す。図の横軸は通算日である修正ユリウス日(Modified Julian Day: MJD)を、縦軸は時刻差を表す。比較精度の検証のために、GPS搬送波位相解析による時刻比較も同時に行い、両結果を比較することで比較結果の正当性を検証した。この実験で得られたDPNの観測精度は1秒平均あたり16 psで、既存の双方向方式よりよい観測精度が得られることを実証した。このDPN方式は、準天頂衛星の地上間時刻比較にも適用された。図9に、NICT本部(東京都小金井市)とNICT沖縄電磁波技術センターに設置された水素メーザを比較した際の周波数安定度の一例を示す。サンプリング周波数204.6 MHz量子化ビット数8ビット出力チャンネル数2外部基準信号10 MHz & 1 PPS波形メモリチャンネルあたり512 KB×2重畳信号用メモリチャンネルあたり64 KBインタフェースUSB 2.0表2 任意信号発生器(AWG)の諸元図8 UTC(NICT)とUTC(TL)の時刻比較結果。青線がDPN信号による結果、緑の線がGPS搬送波位相方式による比較結果。(修正ユリウス日)1715-3 ソフトウェア無線と時刻比較

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