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むすびNICTでの時刻比較におけるSDR技術応用の取組と、開発したソフトウェア相関器を用いた時刻比較装置の紹介を行った。汎用のADC/DACとソフトウェアによるデジタル信号処理により、高価な専用受信機を使用せずとも時刻比較が行えることを実証した。時刻比較において重要な要素ではあるが、SDRでは困難な広帯域な連続観測も、GPUを用いることで実現できることを示した。また、DPNに見られるようにハードウェアでは処理しにくい信号も、ソフトウェアでは容易に実装することが可能で、既存の双方向より高精度な時刻比較も容易に試験することができる。ソフトウェア相関処理では、実時間にこだわらなければ、記録したデジタル信号に対して柔軟な処理が行えることから、時刻比較装置の開発で得られた見地を応用し、環境計測[12][13]や衛星軌道決定[14]の研究なども行っている。パソコンに搭載されているCPUはマルチコア化が進んでおり、これまでは大型計算機でも処理時間を要した計算を、市販のパソコンで短時間に処理することができる時代になった。これからの時刻比較においては、方式ごとに専用装置を開発するのではなく、時刻比較目的にも使用可能な汎用のADC/DACを開発し、デジタル信号処理部分はソフトウェアで処理するSDR方式を取り入れるのが、高精度な時刻比較網の発展にも有効であると考える。謝辞SDR時刻比較のためのADCとしては、情報通信研究機構鹿島宇宙技術センター 近藤 哲朗氏が開発したK5/VSSP32汎用サンプラを使用させていただきました。実時間処理のための並列化及びGPU使用のアドバイスはStuttgart大学 Thomas Hobiger氏より頂きました。ご協力いただいた両氏に感謝します。【参考文献【1D. Kirchner, “Two-way satellite time and frequency transfer (TWSTFT): Principle, implementation, and current performance,” Review of Radio Science, pp.27–44, Oxford Univ. Press, London, 1999.2D.W. Allan, and M.A. Weiss, “Accurate Time and Frequency Transfer During Common-View of a GPS Satellite,” Proceedings of Frequency Control Symposium, pp.334–336, 1980.3W.H.W. Tuttlebee, “Software-Defined Radio: Facets of a Developing Technology,” IEEE Personal Communications, vol.6, pp.38-44, 1999.4後藤忠広,雨谷純,平井敬吾,大沼靖治,石坂護啓,“K5/VSSPサンプラを使用したガリレオ衛星(GIOVE-A)の信号検出,”日本測地学会第106回講演会,奥州文化会館,2006.5電波研究所季報,“K-3型超長基線電波干渉系(VLBI)システム開発特集号,”vol.30, 1984.6後藤忠広,ホビガートーマス,雨谷純,李還幇,“時刻比較用ソフトウェアGPS受信機の開発,”電子情報通信学会論文誌B,vol.J97-B,no.4,pp.363–370,2014.7T. Gotoh, J. Amagai, T. Hobiger, M. Fujieda, and M. Aida, “Development of a GPU-Based Two-Way Time Transfer Modem,” IEEE Trans. Inst. Meas., vol.6, no.7, 2011.8雨谷純,後藤忠広,“複擬似雑音方式衛星双方向時刻比較装置の開発,”情報通信研究機構季報,vol.56,nos.3/4,pp.183–192,2010.9J. Nickolls and W.J. Dally, “The GPU Computing Era,” IEEE Micro, vol.30, Issue 2, pp.56–69, 2010.10NVIDIA Developer, http://developer.nvidia.com11T. Kondo, Y. Koyama, R. Ichikawa, M. Sekido, E. Kawai, and M. Kimura, “Development of the K5/VSSP system,” J. Geodetic Soc. Japan, vol.54, no.4, pp.233–248, 2008.12Y. Arakaki and J. Amagai, “Detection of GPS signal scattered from mountain,” IEICE Communication Express, vol.7, no.4, pp.115–119, 2018.13瀧口博士,後藤忠広,原田昌武,雨谷純,里村幹夫,“放送衛星信号波による火山活動監視,”日本地球惑星科学連合2016年大会,SVC49-P01,2016.14後藤忠広,久保岡俊宏,瀧口博士,雨谷純,“VLBI観測量を用いた放送衛星の軌道決定,”電子情報通信学会論文誌B,vol.J99-B,no.11,pp.1015–1021,2016.後藤忠広 (ごとう ただひろ)電磁波研究所時空標準研究室主任研究員博士(工学)時刻比較、精密軌道決定雨谷 純 (あまがい じゅん)イノベーション推進部門受託研究推進室 電波干渉計、精密時刻比較、リモートセンシング5図9 準天頂衛星仲介による小金井–沖縄間の水素メーザ比較による周波数安定度172   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)5 時空標準計測・⽐較技術

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