はじめにVLBIではクエーサーなどの電波を2つ以上のアンテナで受信する。受信した信号に対して相関処理と呼ばれる信号処理を行うことにより、電波が2つのアンテナに到来する時刻差(遅延時間)を極めて精密に計測できる。一般的な測地VLBIでは、複数のアンテナを用いて、約24時間中にICRF2天体カタログ[1] に含まれる20から30程度の天体の観測を繰り返し行うことで、アンテナの相対位置、基準周波数信号の周波数差、大気伝搬遅延、地球回転パラメータなど様々な物理量を推定できる。VLBIによって求まる遅延時間の精密さは、信号対雑音比(以下SNR)と受信する有効周波数帯域幅(または周波数分散σf)が広くなるほど向上する。そこで、バンド幅合成(Bandwidth synthesis)と呼ばれる、いくつかの帯域を合成して観測帯域を等価的に拡張する技術が開発された[2]。初期のVLBI観測では記録できる帯域がkHzオーダーと狭かったが、帯域を拡張するバンド幅合成は計測精度の飛躍的な向上をもたらすため、現在の測地VLBIにおいても用いられている。測地VLBIの次世代規格として策定されたVGOS(VLBI Global Observing System)では、3GHzから10GHz以上の観測帯域から複数の帯域を受信して、広帯域のバンド幅合成処理による帯域の拡張が想定されている。10GHz以上の帯域をサンプリングしてデジタル記録することができる装置はまだ一般的に存在しないこと、また、人工雑音(例えば、携帯電話による無線通信やWiFi、レーダー信号)を避ける必要があることから、NICTでは10GHz以上の観測帯域の中から1GHzの帯域を4つ切り出して、相関処理した結果を1約9000 km離れた日本とイタリアに設置した直径2.4 mの小型アンテナ間の超長基線干渉計 (Very long baseline interferometer, 以下VLBI)による測地結果を得るために、鹿島34 m局(鹿島宇宙技術センター:茨城県鹿嶋市)の34 mアンテナを基準局としたVLBI実験を行った。2.4 mアンテナの2台はMedicina観測所(Bologna, Italy)と情報通信研究機構(NICT)本部(東京都小金井市)に設置した。どちらも垂直偏波が受信可能で、鹿島34 mアンテナのみ垂直偏波と水平偏波が受信である。実験では全受信帯域の3.2 GHzから14.4 GHzのうち、1 GHz帯域を4つ切り出して受信する広帯域受信システムを用いて、約30時間にわたってクエーサー20天体を繰り返し観測した。観測後、視差角(Parallactic angle)を考慮した直線偏波のデータ補正と電離層による分散性遅延量の精密な補正を行い、約9000 kmの超長基線で世界最高帯域幅9 GHz(4.8 GHzから13.8 GHz、有効帯域幅としては3.1 GHz)のバンド幅合成に成功した。We have carried out a geodetic VLBI (Very long baseline interferometer) on approximately 9000 km baseline between 2.4 m diameter radio telescopes installed in Medicina, Bologna, Italy, and in Koganei, Tokyo by using a 34 m diameter radio telescope in Kashima as a reference station. We installed vertical polarization receivers to 2.4 m diameter telescopes and vertical and horizontal polarization receivers to Kashima 34 meter telescope. Four 1 GHz frequency bands within the total receiving range of 3.2 GHz to 14.4 GHz were simultaneously extracted, then we observed 20 qua-sars repeatedly for about 30 hours. After the observation, linear polarization correction considering the parallactic angle and dispersive delay correction due to the ionosphere effect were applied. As the results, we have successfully performed the world’s widest bandwidth synthesis over the fre-quency range of 9 GHz from 4.8 GHz to 13.8 GHz with the effective bandwidth of 3.1 GHz.5-4 日伊基線で実施した広帯域VLBI 実験のデータ処理5-4Data Processing of the Broadband VLBI Experiment with Japan-Italy Baselines岳藤 一宏 近藤 哲朗Kazuhiro TAKEFUJI and Tetsuro KONDO1735 時空標準計測・⽐較技術
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