度に応じて重み付けされた、それらの平均の時刻(平均原子時)が計算されている。水素メーザを原振とする3つの系統の各々で、平均原子時を目標に原振の周波数が周波数調整器によって調整されている。周波数調整器からは5MHzと1PPSの信号が出力され、それらの内の1系統のみが現用系の信号として選択されてUTC(NICT)となる。3系統の出力信号の時刻差は常に監視されているので、万一いずれかに異常が生じても容易に特定できる。UTC(NICT)として選ばれた系の1PPS信号を数えることで時刻となるが、UTC(NICT)には後に説明する「うるう秒」の調整が反映されている。UTC(NICT)を9時間進めて日本標準時JSTとなる。なお平均原子時を目標とする周波数調整とは別に、必要に応じて年に数回程度BIPMの報告書(Circular T)に基づいて周波数調整が行われて、UTC(NICT)をUTCに同期させている。2.1原子時計NICTが利用する原子時計を概説する[4]。なおNICTが運用するセシウム一次周波数標準器やストロンチウム光格子時計などについては、本特集号の4-2「原子泉型一次周波数標準器NICT-CsF1 & NICT-CsF2」、 4-3「NICTにおけるストロンチウム光格子時計の開発」などを参照いただきたい。後者については、CCTFの作業部会で二次周波数標準に認定された後、BIPMによるUTCの決定に2018年から寄与しており、この時計によるUTC(NICT)の高精度化にも取り組み始めている[6]。現在、日本標準時発生システムには、水素メーザ(アンリツ社製SD1T03C、RH401A)とセシウム原子時計(Microsemi FTD社製5071A)が用いられている。水素メーザはセシウム原子時計に比べて短期安定度が優れている[7]。高周波放電で解離させた水素原子から、特定のエネルギー準位の原子を磁場で選別して、超微細分裂したエネルギー準位間の遷移に伴う電磁波(約1.420GHz)の放射を利用している。日本標準時で用いる水素メーザは、水素原子自身が発生するコヒーレントな(干渉性の良い)電磁波を原振とするアクティブ(能動)型である。水素メーザのデメリットとして、放射された電磁波を共振させる空洞共振器の形状に制限があるため、磁気シールドや真空系などを含めた装置のサイズや重量が大きくなることがある。図2に原器室に設置された水素メーザ(SD1T03C)を示す。原器室は温度24.0±0.5℃、湿度50±10%RHで制御されている。さらに日本標準時の発生に使われるセシウム原子時計は、メーカーの品質管理下で製造されたものである[8]。これらは世界各国の機関が独自開発したセシウム一次周波数標準器ではなく、一般に商用セシウム原子時計と呼ばれる。品質管理によって性能の個体差が小さく、長期間にわたり安定に連続動作することから、世界の標準機関で現在最も多く使われている機種である。この製品は高い安定性と信頼性を備えているが、経年劣化などで時々刻々変化する発生周波数のシフトを装置単体で測定できない。そこで1秒の「正確さ」については、定義値からの周波数シフトを補正できる一次周波数標準器で校正する必要が生じる。この製品では、真空中をビーム状に流れるセシウム原子流を用いている。原子に特定の周波数の電磁波(約9.192 GHz)を照射して、ラムゼー共鳴による電磁波の吸収の強度で周波数を制御するが、一度原子流に使った原子は再利用できない。そこで5年程度ごとに運用を中断し、セシウム金属試料の充填が必要になる。図3に水素メーザと同様の原器室に設置されたセシウム原子時計(3台分)を示す。これらの原子時計の周波数安定度を図4に示す。平図1 日本標準時発生システム12 情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)3 ⽇本標準時システム
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