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合成するバンド幅合成の手法を開発した。このような広帯域バンド幅合成は国土地理院石岡13m局と鹿島34m局を用いた国内VLBI実験において成功している[3]。この技術を応用して、NICTでは遠隔地にある周波数標準の周波数差の測定にVLBI技術を用いる技術開発を進めており、直径2.4mの小型アンテナをイタリアのMedicina(Medicina観測所2.4m局)と日本の小金井(小金井2.4m局)に設置した。2.4mアンテナは口径が小さく、2.4mアンテナのペアでは短時間で十分な相関強度を得ることができない。そのため、鹿島34m局の34mアンテナと2つの2.4mアンテナのペアの間で遅延時間を計測し、その差分から2.4mアンテナ間の遅延時間を計測する[4]。しかし、日本とイタリアの長距離基線では次の3つの問題がある。まず第1に、VLBIによる空間分解能が高いため大きな構造を持った天体は分解されてSNRが低下するので、観測対象にできる天体はコンパクトなものに限られる。第2に、視差角が日本とイタリアで大きく異なり、直線偏波システムで受信した信号をそのまま相関処理をするとSNRが低下する。第3に、電離層による遅延が両局で大きく異なり、広帯域バンド幅合成においてクロススペクトルの位相が一定とならず、電離層による遅延を正確に補正する必要がある。本稿では、これら3つの問題点の解決を図ったので、その方法と結果について述べる。日伊基線のVLBI実験の概要受信システムなどの詳細は、本研究報告の氏原[5]に譲るが、広帯域受信システムは広帯域フィードを装備しており[6]、3.2GHzから14.4GHzに感度を持つ。ダイレクトサンプラは16GHzで高速ADサンプリング(Analog to Digital)を行った後に、内部信号処理で任意の1GHz帯域を切り出すことができる。16GHzでサンプリングを行うため、ナイキスト周波数は8GHzとなる。サンプリングによるエイリアシングを避けるため、8GHz以上の信号を遮断するアナログLPF(Low pass filter)と8GHz以下の信号を遮断するHPF(High pass filter)をサンプラの前段にそれぞれ入れている。このため、片偏波の2.4m局に配置したサンプラ内部には2つのAD変換入力があり、両偏波の34m局ではサンプラ内部に4つのAD変換入力がある。受信帯域から人工雑音を避けつつ1GHz帯域を4つ(中心周波数5.3GHz, 6.3GHz, 8.7GHz, 13.3GHz)がダイレクトサンプラで切り出される。約30時間の測地VLBIでクエーサー20天体を合計700回観測(1回の観測の単位をスキャンと言う)した。1偏波あたりそれぞれの1GHz帯域につき2GHzで1bit量子化のサンプリングを行うため、総記録データレートは8Gbps(Giga bit per second)となり、3局4偏波分の合計で約240TB(Tera Byte)のデータとなる。Medicinaと小金井の2.4mアンテナのデータは観測後、高速インターネット回線で鹿島に伝送した。そして、3局の合計4偏波の相関処理を行い、続いて広帯域バンド幅合成処理を行った。主に国内で行ってきた広帯域バンド幅合成[3]では、まず、全てのスキャンのうち4つの1GHz帯域で最もSNRが高いスキャンを選び、他のスキャンの基準となる校正スキャンとする。4つの帯域間はダイレクトサンプラの前段のフィルタの特性などのため、受信信号の通る経路長が数ナノ秒の遅延差(バンド間遅延)があり、さらに、1GHz帯域内でもクロススペクトルの位相が一定とならず、特性(バンド内遅延)をもつ。そこで、校正スキャンを基準として各スキャンから差をとることで、バンド間遅延とバンド内遅延を除去する。最終的に4帯域のクロススペクトル位相は一定となり、4帯域をバンド幅合成することで精密な遅延量を得ることができる。ここで注意が必要なのは、広帯域バンド幅合成後に得られる遅延は校正スキャンの遅延分のオフセットを持つことである。また、電離層による遅延も基準となる校正天体スキャンの電離層遅延に対する各スキャンの相対値である。こうして得られた鹿島34m局と2つの2.4m局の遅延を基線解析すると、鹿島34m局の局位置を基準にして、それぞれの2.4m局の局位置が推定される。このようなVLBI実験を2018年10月以降十数回行った。実験により天体の選出や観測時間、総スキャン数が異なるが、これ以降記述する結果には実験コード(プロジェクトGALA-Vを2文字に短縮したgvと西暦の下1桁、通算日で成る、例えばgv8287やgv9045)を併記する。長距離基線に特有な問題への対処方法の検討      2018年7月にイタリアのMedicina観測所に2.4m小型アンテナシステムを運搬して設置した。このような国際基線では大きな構造をもつ天体が分解してSNRが下がることが予想できる。このため、基線長に対して大きい構造を持つ天体は使用できず、測地VLBIで使用されているICRF2天体カタログを更に絞り込む必要があった。例えば、日本とイタリアの直線距離約9000kmで星からの射影されたアンテナ距離を半分の4500kmとすると、空間分解能λ/D(波長/射影基線長)はXバンドの8GHzでの観測とすると1.7ミリ秒角となる。観測するクエーサーが3ミリ秒23174   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)5 時空標準計測・⽐較技術

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