角の正規分布の強度を持つ天体だと仮定すると、天体が点源とした場合に比べて見かけ上のフラックス密度が24%に低下する。そこで、Astro geocenter*1で作成されたXバンドの米国VLBA(Very long baseline array)電波カタログから本実験に適切な電波天体を選出した。選出方法は約9000天体から、赤緯が-10度以上、総フラックス密度が1Jy以上、そして、分解されないフラックス密度との割合(長い基線でも天体サイズが変わらないと考える)を35%以上として合計115天体を選出した。さらに、測地VLBI用のオートスケジューラで観測スケジュールを作成するとさらに20天体程度(実験により選定天体数が増減して、22天体から26天体であった)に絞り込まれた。また、視差角が日本とイタリアで大きく異なり(図1参照)、我々の直線偏波受信システムでは同じ天体でもSNRが大きく低下する。例えば2局の視差角差がゼロであれば、問題無く観測天体を検出できるが、視差角差が90度だと全く検出できない。Roger[7]によると直線偏波受信システムを採用したアンテナa,bでストークスパラメータIは下記の式で合成可能である。ここでH,Vはそれぞれの水平偏波と垂直偏波の複素スペクトルを表し、スター記号⋆ は相関演算子、バー記号は時間平均を意味する。また、δpは2局それぞれのアンテナ位置での視差角差である。 I=(Ha⋆Hb+Va⋆Vb)cos(δp) (1)ここで、2.4m局は垂直偏波のみ受信可能であり、式中のHbが観測できずゼロとなるが、視差角差の補正を行うことでストークスパラメータIの半分が得られる。I/2=(Va⋆Vb)cos(δp)+(Ha⋆Vb)sin(δp)(2)次に懸念される問題は、電離層による影響である。100km程度のエリアの中であれば、全電子数(Total electron unit)の差が約0.5TECU以下になる。ここで全電子数はTECU=1016 electron/m2の単位である。一方、日本とイタリアでは、共通なクエーサーを観測した場合のアンテナの仰角や太陽時も異なり、±20TECU以上変動する(太陽の活動期は更に大きくなると予想される)。幾何学的に決めた遅延量をτ、また、2つの観測周波数fs, fx における遅延τs , τxは次のように表すことができる。ここで、Nはアンテナまでに到達する単位底面積の円柱に含まれる全電子数である。τx=τ+Nf2x,τs=τ+Nf2s(3)両式の差分をとることで、幾何学的遅延量τは消去でき、さらに式変形を行うと、電離層に起因する分散性の遅延量∆τgから全電子数Nが得られる。∆τg=N(1f2s−1f2x)(4)このような2つの周波数帯域を利用する方法は、既存のS/Xバンドを使用した測地VLBIや、GPSシステムでも用いられている。仮に、Cバンド(6GHz)とXバンド(8GHz)の観測データを合成する場合に5TECUの電離層遅延を仮定すると、それぞれ100psと150psの群遅延、位相遅延では300度と360度と、60度もの差が生じる。これまでに我々が行った国内実験ではバンド幅合成処理は問題なく実施できたが、実際は、アンテナ間の距離が近く、電離層による遅延がほぼ同じで問題が表面化しなかったためであり、日本とイタリア基線のデータ処理ではより精密な補正が必要である。相関処理後の直線偏波データ合成図1は鹿島とMedicina基線での実際の24時間測地VLBI実験から視差角差δpを計算した結果(実験コードgv9015)である。日本国内であれば高々数度の差で無視できたが、広い角度にわたり分布していることがわかる。図2は鹿島とMedicinaの基線で、天体が検出できたHV成分とVV成分のSNR比率と視差角差の正接の関係を示したもので、プロットで93%の高い相関係数で相関がある。縦軸が大きくなるほどプロットの分散が大きく見えるが、視差角差が90度(Ha⋆Vb−Va⋆Hb)sin(δp)+4図1鹿島と Medicina 基線の約30時間VLBI実験(実験コードgv9015)における視差角の差δp 80 100 120 140 160 180 200 220 240 260 280 0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500Difference of PA [deg] Scan number*1http://astrogeo.org/vlbi/solutions/rfc_2016c1755-4 日伊基線で実施した広帯域VLBI 実験のデータ処理
元のページ ../index.html#181