もしくは270度に近づくと、分母であるHV成分のSNRが低下するとともにそのばらつきが増加するためである。次にVV成分とHV成分の相関データを遅延差と位相差を考慮して、式(2)に従って合成する。図3と図4はVV成分とHV成分の相関データの群遅延と、群遅延差を補正後に位相遅延を比較した結果(実験コードgv8287)である。図3に示すとおり、VV成分とHV成分の群遅延は傾きが1の直線上に分布しており、その群遅延の差は一定であることが分かる。また、図4に示すとおり、VV成分とHV成分の位相遅延差も一定である。この群遅延差と位相遅延差を補正して2つの成分を合成した結果が図5である。図5の観測天体のクエーサー1928+738の視差角差は約135度であり、HV成分とVV成分が共に視差角差がない場合に比べてSNRが約1/√2√2になるため、合成後のSNRは片方の成分に対して計算上約√2倍に向上する。この図5の場合、HV成分のSNRは18.3、VV成分のSNRは18.7であった。予想されるSNRが26.2であるのに対して、合成後のSNRは25.7となり精度良く合成できたことが分かる。ここで基準となる偏波成分がHV成分とVV成分の2つあり、このどちらか2通りの合成方法がある。本稿ではVLBI実験による局位置の推定について触れていないが、最終的にMedicinaと小金井の2.4m局の遅延の差を鹿島34m局を基準として計算する。鹿島34m局と小金井2.4m局の基線では視差角差がほぼゼロであるためVV成分のみ有効で、VV成分の遅延結果を用いる。鹿島34m局を基準として2.4m局間の遅延時間差を得ることを考慮すると、鹿島とMedicinaの基線でも共通となる偏波成分は鹿島のV偏波を利用しているVV偏波である。このため、鹿島とMedicinaでもVV成分の群遅延、位相遅延が基準となるように合成した。この偏波合成を測地VLBI中の全スキャンに対して行った。図2鹿島とMedicina基線の約30時間VLBI実験(実験コードgv9015)におけるHV成分とVV成分のSNR比率と視差角差の正接の比較図3 VV成分とHV成分の群遅延時間の差(実験コードgv8287)-0.04-0.02 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1-0.04-0.02 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1Delay VV combination [us]Delay HV combination [us]図4VV成分とHV成分の位相遅延の差(群遅延時間の差を補正後、実験コードgv8287)-150-100-50 0 50 100 150 0 50 100 150 200 250 300 350 400 450Phase difference [deg]Scan number of gv8287図5鹿島とMedicina基線のVLBI実験における偏波合成前後の相互相関関数。天体は1928+738を115秒間観測した。左からHV成分(十字印,SNR18.3)、VV成分(クロス印,SNR18.7)、そして、HVとVV成分を合成した結果(丸印,SNR25.7)。各プロットは比較のため、ピークの遅延時間を10ナノ秒ずつシフトさせている。 0 5 10 15 20 25 30-40-30-20-10 0 10 20 30 40SNRDelay [ns]HV VV HV+VV176 情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)5 時空標準計測・⽐較技術
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