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バンド幅合成における電離層補正 3で述べたように日本とイタリアの超長基線では広帯域バンド幅合成を行うには電離層補正を精密に行うことが必要である。筆者らは1GHz帯域の4バンドのVLBI実験で、各バンドのSNRが10以上あったときにTEC値(全電子数値)を精密に推定する方法を開発した[3]。しかしながら、日本とイタリアの長基線ではSNRが国内基線に比べて低下するため、各1GHz帯域のSNRが有効時間内に10未満となり、最小自乗推定が収束しないことが多く発生した。そこで、TEC値をパラメータとして変化させながらバンド幅合成を行い、最も相関強度が高くなるTEC値をそのスキャンでのTEC値と決定することとした。この方法はVGOSの解析でも使用されている[7]。まず荒く4TECUステップで±50TECUの間をサーチして、ピーク値付近で1TECUごとにより細かく精密サーチする。精密サーチ付近で2次関数フィットによって最適値を得る。得られた最適なTEC値を用いて再度広帯域バンド幅合成を行い最終的な遅延量を得る。図6と図7は鹿島とMedicinaの基線において、クエーサー1144+402を観測したデータ(実験コード gv9199)を偏波合成後にTECサーチを行った結果と、最適TEC値でバンド幅合成を行った相互相関関数(フリンジと呼ばれる)である。同様に図8と図9はクエーサー0133+476の結果である。SNRが16程度と比較的小さなスキャンでもほぼ線対称の相互相関関数が得られており、うまく4つの1GHz帯域を広帯域バンド幅合成できたことがわかる。このTEC量を考慮したバンド幅合成を測地VLBI中の全スキャンに対して行った。図10は約30時間の測地VLBI(実験コードgv9045)のバンド幅合成処理で得た最適TEC量とGNSS(Global Navigation Satellite System)によるTEC計測値からの比較結果である。GNSSによるTEC測定値は600km上空に電離層を仮定したモデルを用いて、5図9図8で得られた最適TEC値での広帯域バンド幅合成の結果得られた相互相関関数。SNRは16.0であった。 0 5 10 15 20-1-0.8-0.6-0.4-0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1SNRDelay [ns]図6広帯域バンド幅合成において4 TECUステップでTEC量をさせながらSNRを計算してプロットした。ピーク付近で1 TECUずつ変化させて精密にサーチを行っている。観測天体はクエーサー1144+402で観測時間は60秒である。ピーク付近での2次曲線フィットで最適値は6.5 TECUと推定された。 8 10 12 14 16 18 20-50-40-30-20-10 0 10 20 30 40 50SNRTEC [TECU]図7図6で得られた最適TEC値での広帯域バンド幅合成の結果得られた相互相関関数。SNRは17.4であった。 0 5 10 15 20-1-0.8-0.6-0.4-0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1SNRDelay [ns]図8クエーサー0133+476を110秒間観測したデータの電離層遅延を精密に推定した結果、電離層遅延の最適値は-16.1 TECUと推定された。 6 8 10 12 14 16 18 20-50-40-30-20-10 0 10 20 30 40 50SNRTEC [TECU]1775-4 日伊基線で実施した広帯域VLBI 実験のデータ処理

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