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アンテナのある位置での視線方向でのTEC値を計測した結果を用いて、2つの局における差である。両者の相関係数は約86%が得られた。VLBIによるTEC推定値は校正天体のTEC値を基準とした相対値のため、GNSSによるTEC推定値とは3.1TECUの固定したオフセットがある。考察鹿島34m局とMedicina観測所の2.4m局を用いた約30時間の測地VLBIで、SNRが10以上あることを閾値とした検出数(全体786スキャン)を比較してみると、偏波合成前のHV成分とVV成分は4つの帯域中で最も低い観測周波数帯域に対して、それぞれ241スキャンと375スキャンであった。4で述べた偏波合成を適応すると、SNRが向上して、577スキャンに増加した。鹿島34m局と小金井2.4m局の国内基線とのSNRを比較すると、今回の偏波合成適応後のSNRは平均的に40%ほどの値となった。これは射影基線長が天体の観測する時間帯ごとに異なるため単純な比較となるが、天体フラックス密度の分布がガウシアンだと仮定すると、射影基線長のアンテナビームに比べて平均的に1.2倍ほど天体のサイズが大きいためだと推測できる。なるべくコンパクトな天体を選出しているが、それでも天体構造の影響を受けていると考えられる。さらに4つの1GHz帯域を合成するバンド幅合成後は753スキャンとなり、全スキャンに対する検出スキャン数の割合は95.8%に向上した。またバンド幅合成により周波数帯域幅が拡張され、1GHz帯域幅(有効帯域幅296MHz)から、最高周波数から最低周波数を引いた帯域幅が9GHz(有効帯域幅3.1GHz)となった。有効帯域幅により遅延時間の推定精度が決まるため、推定精度は約10倍に向上した。実際、1GHz帯域の図5はフリンジの時間幅が2ナノ秒程度であるが、広帯域バンド幅合成後の図5や図9に示すとおり、相互相関関数のピーク幅は200psと約1/10倍になっており、遅延時間の推定がより精密にできたことが分かる。まとめイタリアのMedicina観測所に設置した2.4mアンテナとNICT本部にある2.4mアンテナを、鹿島34m局を共通の参照局としてVLBI実験を行った。コンパクトで比較的フラックス密度の大きな天体を選定し、直線偏波受信システムによる観測データを合成してSNRを改善した。さらに電離層の遅延を精密に補正して広帯域バンド幅合成を行った。VGOS計画により口径10数mの新しいアンテナが建設されつつあるが、本稿に示したように大口径アンテナを併用することにより小型アンテナであっても観測に用いることが可能であり、VLBI観測可能な30m級の大型アンテナを広帯域受信システムに改造(若しくは新設)して、安価な小型アンテナを高密度に配置することも今後有効になると考えられる。謝辞本稿はワイヤレスネットワーク総合研究センター小山泰弘様に丁寧かつ詳細にコメントいただき完成することができました。心より感謝申し上げます。【参考文献【1Ma, Chopo. “The Second International Celestial Reference Frame (ICRF2),” Sixth International VLBI Service for Geodesy and Astronomy. Proceedings from the 2010 General Meeting,” VLBI2010: From Vision to Reality,” Held 7-13 Feb. 2010 in Hobart, Tasmania, Australia. Edited by D. Behrend and KD Baver. NASA/CP 2010-215864., pp.273–279, 2010.2Rogers, A. E. E. , “Very long baseline interferometry with large effective bandwidth for phase-delay measurements,” Radio Sci., 5, 12391247, 1970.3Kondo, T., & K. Takefuji, “An algorithm of wideband bandwidth synthe-sis for geodetic VLBI,” Radio Sci., 51, doi:10.1002/2016RS006070, 2016.4関戸他,広帯域 VLBI システムの開発と測地・周波数比較実験の報告、測地学会誌、第 63 巻、第 3 号、pp.157–169、2018.5氏原秀樹, “広帯域アンテナの開発,” 情報通信研究機構研究報告, vol.65 no.2, 5–5, 2019.6Ujihara H., et al. (2019) “Development of wideband Antennas,” Inter-national Symposium on Advancing Geodesy in a Changing World.67図10鹿島とMedicinaの超長基線の測地VLBI(実験コードgv9045)における広帯域バンド幅合成で算出されたTEC測定結果とGNSSによる測定結果(地上600 kmに電離層レイヤーがあるモデル)の比較。データ点数は780点で、直線近似(傾きa,切片b)を行った。図中のアルファベットは観測天体を表す。178   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)5 時空標準計測・⽐較技術

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