まえがきVLBI[1]は電波干渉計の一種であるが素子アンテナ間の距離が遠いため各局に原子時計を置き、これを基準信号として個々のアンテナで受信した銀河系外の電波星からの信号の位相を記録し、それらの相関処理を行うことで高分解能の天体観測、あるいはアンテナの精密な位置測定や原子時計の周波数比較を行うことができる。情報通信研究機構(NICT)では、将来の「秒の再定義」候補となっている光格子時計の周波数比較に用いるための広帯域VLBIシステムを開発し、国内での実証を経て2018年から日本–イタリア(日–伊)間での比較実験を始めた[2][3]。このシステムは広帯域フィードとダイレクトサンプラ、広帯域バンド幅合成ソフト[4]を組み合わせた独自の開発の成果であり、独自の進化を遂げた生態系を有するガラパゴス諸島にちなんでGala-V(ガラパゴスVLBIの略)という愛称がつけられている。Gala-Vでは鹿島34mアンテナのような集光力の高い大口径アンテナをハブとして十分な基線感度を確保し、比較したい原子時計を持つ研究機関にはMARBLEと名付けた口径2.4mの移設が容易で低コストな小型アンテナを設置する。Gala-Vの特徴は、高感度の大型アンテナと小型局との相関結果から小型アンテナ間の遅延時間差を得ることで大型アンテナの弱点である風や重力、温度変形による誤差を減じ、システムコストの低減と感度、利便性を両立させていることである。近年では測地VLBIでのVGOS(VLBI Global Ob-serving System)[5]や電波天文でのSKA(Square Ki-lometre Array)[6]において、既に広帯域アンテナが前提となっている。測地VLBIではクエーサーなどの遠方天体からの連続波を用いるので、帯域が広がれば感度が向上し、精度が上がる。電波天文では受信機を切り替えることなく同時に複数の分子輝線やメーザの観測ができる、あるいは周波数ごとの天体像を同時に得られることが利点である。これらのプロジェクトでは開発済みの小型でビーム幅の広い広帯域フィードに合わせた11–15mクラスのアンテナを新規に建設し、受信機は冷却して高い感度を得ている。VLBI観測での基線における感度、すなわちSNRは式(1)のように表される。 (1)Tは積分時間、Tsysは温度に換算した受信機系の雑音電力、Aはアンテナの開口面積、ηは開口能率、1鹿島宇宙技術センター34 mアンテナ(鹿島34 mアンテナ)のような既存の大型カセグレンアンテナの受信帯域幅を低コストで拡大できる広帯域フィードとOMT(Orthogonal Mode Transducer: 直交偏波変換器)を開発した。これらを使用して広帯域化した鹿島34 mアンテナと、同様に改造した2.4 mの小型VLBI可搬局MARBLEを用いて日伊間でのVLBI(Very long Baseline Interferometer:超長基線干渉計)による光格子時計の周波数比較実験を開始した。既存の様々なアンテナ光学系に適用可能な広帯域フィードの設計技術は電波天文や測地VLBIへの応用のみならず大気中の水蒸気量の精密測定や違法無線の監視、地球外文明探査など多くの用途が期待される。Wideband feed and OMT (Orthogonal Mode Transducer) have been developed for Kashima 34 m. This system also enables low cost refurbishment of conventional Cassegrain reflector an-tennas. NICT has been started intercontinental VLBI Time and Frequency Transfer experiment of optical lattice clocks between Japan and Italy with refurbished Kashima 34 m and two 2.4 m an-tennas on each observatory. This wideband feed will be widely applicable for astronomy, geodetic VLBI, water vapor radiometer, field survey of illegal radiations, SETI, and more.5-5 広帯域アンテナの開発5-5Development of Wideband Antenna氏原秀樹Hideki UJIHARA 1815 時空標準計測・⽐較技術
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