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Bは受信帯域幅、添字の1と2は基線対となる個々のアンテナを示す。Tは大気や受信機、基準信号の「揺らぎ」で制限される。Aの拡大は大型アンテナでは実質不可能だが、既存の大型アンテナの感度向上を図るなら受信アンプを冷やしてTsysを改善するより広帯域フィードを開発して帯域幅Bを桁で改善する方が費用対効果は高い。受信機の雑音で最も支配的な初段アンプの雑音は3–14GHzの製品を常温で使うと40Kから60K程度、4Kでは1/10程度に下がるが冷凍機の搭載場所や保守・運用コストが必要になる。その上、受信機系の雑音にはアンプだけでなく大気や鏡面、フィードなど初段アンプに至る経路での熱雑音が数10K程度加わる。他方、これまでせいぜい数10〜数100MHzだった帯域幅を10GHz以上にしてもアンプの冷却と同程度にSNRを改善でき、フィードの開発に使う計算機とソフトウエアは4K冷却受信機の1/3〜1/5くらいの価格である。鹿島34mのような大型カセグレンアンテナ用の広帯域フィードが開発できたとして、小型局を相手とする基線でのSNRを考えてみる。10数mクラスのアンテナを使用するVGOSやSKAのアンテナの開口面積は鹿島34mアンテナの1/4以下だが受信機は冷却されている。受信帯域幅が同じとするなら、鹿島34mアンテナのような開口面積の大きなアンテナがハブであれば受信機が常温でもVGOSやSKAのアンテナと感度面では遜色ない。よって既存の大型アンテナを広帯域化してハブに利用するのがコストパフォーマンスの点で最善と考えられたので、Gala-Vではまず鹿島34mアンテナ用の広帯域フィードを開発して感度向上を狙うことにした。フィードアンテナ(以下、フィードと略す)はレフレクタアンテナやレンズアンテナなどの焦点に置かれ、フィード後端の端子から同軸ケーブルや導波管を介してアンプにつながる伝送線路と目標電波源からフィード開口面までの3次元の伝送路の間で、極力損失なく電磁波を仲介する役割を果たす(図1)。パラボラアンテナではフィードは放物面鏡の焦点に、カセグレンアンテナでは双曲面副鏡が作る2次焦点に置くと表現されるが、実際は波動光学で設計されるので無限遠方からの平面が作るのは焦「点」ではなく、中央のピークとそれを取り巻く同心環状の電力の集中した領域を持つ焦点像である。フィード内部の導波路と外の自由空間とのインピーダンス整合の必要からフィードの開口径は数波長を要することが多い。レフレクタなどアンテナ光学系の一般的な使用周波数の上限は鏡面誤差が波長の1/10程度になる周波数、下限は鏡面の大きさが波長の10倍程度となり幾何光学近似が悪化する周波数と考えてよく、多くの場合、使用可能な最大最小周波数の比は2から10を超える。よって本項ではアンテナの広帯域化でボトルネックであった、広帯域フィードの研究開発に焦点を当てる。周波数帯は、古くから無線通信やレーダー、電波天文や測地VLBIなどで広く使われている周波数1GHzから100GHz程度、すなわちマイクロ波からミリ波の領域を対象としている。送受信アンプや信号処理装置は半導体技術の進展により既にフィードよりも十分に広帯域なものが利用できるし、レフレクタやレンズなどのアンテナ光学系についても十分な設計理論が確立され、多数の良書がある[7]ので割愛する。広帯域フィードの開発2.1これまでの状況フィードは、送信あるいは受信アンプにつながる伝送線路内の電磁波とアンテナ光学系の焦点にあるべき電磁波分布のインピーダンスとモードの整合を取らねば効率の良い伝送ができない。一般的なホーンアンテナによるフィードでは、周波数帯域が最大最小周波数の比が1.2から2程度だが、20世紀の後半には測地VLBIで用いられてきたS/X帯(2GHz帯/8GHz帯)共用フィードのように複数の周波数帯を共用できるものも実用化されていた。しかし、その間の周波数帯を全て同時に受信できる構造ではなかった。測地VLBIやGala-Vでは電波源天体の構造や特性を研究することが目的ではないので電波スペクトルの観測は行わず、相関処理でアンテナの相対位置と遅延時間差を精密に決めるための連続波観測を行う。式(1)に示すとおり、同時に受信できる帯域幅が広がれば連続波についての感度が改善する。遅延時間を決定するのに利用できるサンプルが増え、誤差が減るからである。2図1 パラボラアンテナ(左)とカセグレンアンテナ(右)の例赤丸の中がそれぞれのフィードアンテナ左: NICT本部(小金井)2号館屋上に設置した当初のMARBLE2(口径1.5m)右: 同所で改修後のMARBLE2(口径2.4m)182   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)5 時空標準計測・⽐較技術

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