そこで放物面の主鏡と双曲面の副鏡の鏡面を光路長が一定の条件を保ったまま少し修整して主鏡面での電磁場分布を調整することで、開口能率80%程度を達成している[8]。しかし光軸中心にフィードが置かれない場合、副鏡と主鏡、フィードの位置関係が設計とずれた場合など光学系の誤差による性能低下は大きくなり、多数のフィードを切り替えて使用する鹿島34mアンテナでは60–70%程度となっている。VGOSではリングフォーカス光学系(図3、4)で鏡面での電力分布の均一化を図って効率を上げているが、これも光学系の誤差に弱い(図4)。とはいえGala-VのようなVLBIでの感度を考えたとき、従来の10倍以上の帯域幅を得られるなら開口能率が20–50%程度でも感度は向上するのだから、Gala-Vではまず帯域幅の拡大を図り、そのフィードを実験・観測に使いながら改良を進め、能率を向上していくこととした。なお、開発にあたってはVGOSアンテナとの仕様互換性とアンテナ周辺の電波雑音の周波数特性、データ量の削減を考慮して周波数を決定している。当面の実験では鹿島34mアンテナはVGOSアンテナと同等の感度が確保できれば良く、全局が常温受信機でも問題はないが、将来的には冷却受信機による感度向上も可能なフィード設計としている。2.3数値計算の戦略パラボラの主焦点に置くフィードでは要求されるビーム幅が広いため開口径が小さく、数値計算の規模も小さくて1モデルあたりの計算時間も短い。しかし鹿島34mアンテナのようなカセグレンアンテナではフィードが直接照らすのは副鏡であり、要求されるビーム幅が小さいことから開発が困難だった。前者ではフィードのビーム幅は中心から縁までおおむね50度程度だが後者は17度で約1/3なので開口径は3倍、体積は20倍以上になる。さらに前項で述べたとおりに最大最小周波数比が10の広帯域を狙うなら数値モデルの節点数は通常のフィードの1000倍になり、その2乗から3乗で計算時間が増大する[9]。効率良く格子点を設けて100倍程度の増大に抑えても計算量が飛躍的に増えることは間違いない。そもそもフィードの形状は通常の円錐では無理で、高次モードを発生させる段差やテーパの変化が必要となる。円錐であれば形状パラメータは開口径と長さの2つだが、テーパの変化部を設けると、その軸方向の位置と半径でパラメータが2つ増える。その自由度を利用して電磁場分布を調整していく(図4)が、N個のパラメータの単に初期値の上下を探索するだけでも2N通りの組合せになる。1年間に1000個のモデルを試すなら1つのモデルには8時間しか使えない。この種の問題ではパラメータが増えすぎると開発に要する時間が容易に宇宙年齢を超えるので、開発の初期値には同心円構造かつモード整合法だけで効率的に計算できるマルチモードホーンとコルゲートホーンを選んだ。ただし、コルゲートホーンは製作の容易な開口面コルゲートとし、高次モードも利用して広帯域化する。動径方向に溝を切る通常のコルゲートホーンでは軸方向に多数の溝が並ぶため格子点数が増えるだけでなく、制作の時間も手間もかかるうえにフィードが長く重くなるからである。マルチモードホーンは著者自身が手がけたVSOP2/ASTRO-G衛星[10][11]や上海天文台の6.7GHzメタノールメーザ観測用フィードの設計[12]の設計を初期値とし、ビーム幅を鹿島34mアンテナに合わせ、更なる広帯域化を図ることとした。フィードの計算モデルの伝送路側は円形導波管の基本モードであるTE11モードを仮定してモード整合法で最適化し、並行して有限要素法で設計した直線2偏波対応のOMTをフィードに接続して再度、有限要素法で最適化を図ることとして全体の計算時間を短縮した。OMTは遮断周波数と高次モードが発生する周波数の比を大きくとるためにクワッドリッジ導波管(図5)としたので直線2偏波での利用となるが、円偏波のOMTを広帯域化するよりはるかに容易である。数値計算による試行の結果、十分に満足がいく性能図3パラボラアンテナ、カセグレンアンテナ(左)、リングフォーカス・アンテナ(右)パラボラでは副鏡がなく主鏡の焦点(f1)を使い、カセグレンでは副鏡による2次焦点(f2)を使う。リングフォーカスでは1次焦点がリング状になり、電力の強いフィードのビームの中心が主鏡の縁に来るような照射分布となる。双曲面鏡放物面鏡軸外回転 楕円鏡軸外回転放物面鏡f1f2f1f2図4 典型的なリングフォーカス・アンテナ副鏡形状が独特であり、副鏡とフィードが近い。184 情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)5 時空標準計測・⽐較技術
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