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よる宇宙版JJYかと思われたパルサーは、ブラックホールになるほど重くない星が最期を迎えて中性子星となった姿であった。しかしその周期はいまや地球回転と同様に「秒」の基準ではなく、「星」より正確な原子時計を手にした物理学者の観測対象である。その基準となる光格子時計などの正確な時計の精度比較は科学や社会生活の基盤を支える技術である。VLBIで比較を行うGala-Vは光ファイバ接続での比較と異なり時計間の距離に制限がなく、衛星双方向と異なり衛星回線使用料と送信免許が不要で、GPSのように衛星軌道情報への依存がないのは利点だが、ハブとなる大型アンテナの維持費が難点である。Gala-Vにおける観測周波数帯はVGOSでも使用可能な3.2–14.4GHzの中から最大1.6GHz幅をバンド幅合成で4チャンネルを1台のサンプラで周波数変換を行わずに一括して取得する仕様だが、この「RFダイレクトサンプリング」によりダウンコンバータの位相ノイズや並列したサンプラのタイミングのズレを避けられる。事前のアンテナ周辺のRFI(Radio Frequen-cy Interference)の調査結果とデータ記録容量の節約を考慮してフィードの性能最適化周波数に優先順位をつけ、開発の迅速化を図っている。鹿島34mアンテナには2015年に、2つの小型局MARBLEには2016年と2017年にNINJAフィードと名付けた3.2–14.4GHzが受信可能な広帯域フィードとOMTが搭載され(図1、6、7)、国内での試験を経て2018年夏にMARBLE1をイタリアの国立天文物理学研究所(INAF: Istituto Nazionale di Astrofisica)のメディチーナ(Medicina)電波観測所に設置し(図7)、NICT本部(小金井)に据え置かれたMARBLE2と共に日本とイタリア間でのVLBIによる光格子時計の周波数比較実験を開始した。なお、実際の運用では1GHz幅で4チャンネルをサンプリングし、強いRFIを避けつつデータ記録量も節約して遠隔地間のデータ転送時間や相関処理時間も短縮している。この実験ではアンテナ位置と遅延時間差を精密に測るので、観測天体の数が重要である[15]。感度が向上すれば基線長が伸びても分解されない遠方の天体が利用できるし、所定のSNRを得るための積分時間を短かくできれば多くの天体が利用できるメリットがある。3.1周波数比較実験Gala-Vに向けた各アンテナの改修3.1.1鹿島34 mの改修鹿島34mアンテナは1988年に建設され、沿岸部にあるために痛みがひどくなっていたので、イタリア図8 鹿島34mアンテナ上:ホログラフィによる鏡面調整中の鹿島34mアンテナと参照アンテナと月広帯域フィードであれば実際にVLBIや電波天文観測に使う受信機系で衛星放送や通信波も受信できるので、受信機系を切り替えることなく鏡面調整ができる。参照アンテナには改修で不要となった旧MARBLE1の1.65mパラボラ主鏡とフィードを再利用した。下:皆既月げっしょく蝕に向かう月と鹿島34mアンテナ図7 イタリアへ送られたMARBLE2上:鹿島からイタリアに向けて輸送準備中のMARBLE2下:国立天文物理学研究所(INAF: Istituto Nazionale di Astrofisica)のメディチーナ(Medicina)電波観測所(伊)に設置したMARBLE1(口径2.4m)。186   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)5 時空標準計測・⽐較技術

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