正はまだ行なえていない。補正後の能率は全帯域で50%近くに達していると思われるが、ビーム形状の測定後にあらためて正確な性能評価を行いたい。また、可搬局であるMARBLEは鏡面の精度維持のために副鏡をつけたままでも12ft以上のコンテナに収容して運搬できるように設計した。そのため通常のカセグレンアンテナより主鏡に対する副鏡の直径比が大きくなり、遮しゃ蔽へい損失が4%程度に達している。鹿島34mアンテナについては様々な研究に使われていており、保守の時間も必要なために広帯域フィードのための光学系の調整時間が十分にとれず、暫定値である。また、MARBLEと鹿島34mアンテナのTsys*はR-Sky法による修正システム雑音温度である。なお、Jy(ジャンスキー)は受信電力のフラックス密度の単位であり、天文学者の名前に由来する。天文学では天体の電波強度をJyで表現するので、アンテナの性能指標であるSEFD(System Equivalent Flux Density)もこれで表現することが多い。SEFDは受信アンテナの雑音温度を2倍にする電波源天体のフラックス密度として定義される。他にVGOS仕様のアンテナとしてOnsala Twin Telescope、従来の測地VLBIアンテナとして鹿島・小金井11mアンテナを例に挙げた。鹿島34mアンテナは集光面積が大きいので受信機が常温であってもVGOSアンテナと感度が同程度だが、近年の測地VLBI用アンテナに比べると駆動速度が低くなってしまっている。3.2 Gala-V用広帯域フィードとOMTの性能現状の広帯域フィードの性能の例としてMAR-BLE2で2019年夏から使用しているNINJAフィードのビームパターンの計測例を図11に示す。前述のとおりフィード開口面の電磁場のモードを適切に制御しない限りは周波数が倍になればビーム幅は半分になるが、高次モードを活用したために周波数によってビーム形状の変動はあるものの、周波数が4倍違ってもビーム幅の変動は1.5枚程度にとどまり、しかもE面(電場に平行な方向)とH面(垂直な方向)のパターンの差も抑えられ、軸対称に近い形状となっている。もちろん、広帯域フィードのみならずOMTについても性能向上に対する研究開発が続けられている。広帯域観測ではアンテナ周辺の人工電波が雑音となるため、Gala-Vで使うOMTは、2回目の改良で3GHz以下を急峻に遮断できる特性を持たせた。初号機をアンテナに搭載してみたところ、3GHz直下の無線LANなどの電波の抑圧が不十分だったためである。2019年秋から使用予定の3回目の改良品ではリターンロスを-15dB程度にまで低減させた(図12)。それまでと同様の-10dB程度でもよいならPort0では17GHzまで、Port1では15.5GHzまで上限周波数を拡大できている。2つのポートで性能の差があるのは構造的にやむを得ないが、使用帯域内でリターンロスを十分に下げられれば十分である。Gala-V以外での使用を想定してさらに帯域拡大を図ったOMTも開発が進められている(図13)。新MARBLE1,2(旧MARBLE1,2)鹿島34m*1参考鹿島・小金井11m*1Onsala Twin Telescpoes(OTT)*2口径[m]2.4(1.65,1.5)341113.2フィード名称または形式NINJA(Open Boundary Quad-Ridge Horn)IGUANA-HNINJAコルゲートホーンQuad-Ridge Flared Horn受信周波数[GHz]3.2–15(2–12GHzのうちS帯とX帯のみ)6.5–153.2–15 S帯:2.21–2.36X帯:7.70–8.603–18(4.6–24も有)(VGOS仕様:2–14)Tsys*[K]120–250(200–300)120–25080–20070,120(常温受信機)20–25(冷却受信機)開口能率[%]50–25(40–10)50–3045–20 S帯:41,X帯:7070–50SEFD[Jy]*315 KJy–50 KJy(1 MJy–2 MJy)900–3000700–2500 S帯:5000,X帯:5000800–1600(VGOS:2500以下)駆動速度[度/s]5Az:0.8, El:0.643Az:12, El:6備考副鏡直径500mm可搬局副鏡直径3.8m広帯域系のみ記載副鏡直径1.4m同型2台を鹿島と小金井に設置*1:吉野泰造、黒岩博司,“全体システムの概要”通信総合研究所季報 vol.36特8, pp.23-31, January 1990,NICT時空標準研究室編“34m白書”などから抜粋*2: J. Flygare, M. Pantaleev, B. Billade, M. Dahlgren, L. Helldner, R. Haas, ” Sensitivity and Antenna Noise Temperature Analysis of the Feed System for the Onsala Twin Telescopes.より抜粋 *3:Jy=10-26W/m・Hz表1 各アンテナの性能190 情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)5 時空標準計測・⽐較技術
元のページ ../index.html#196