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メーザの優れた周波数安定度を短い平均化時間で計測できるため、水素メーザの安定度の確認や万一の異常の原因究明に役立っている。DMTDの利用で高精度の計測が可能になったが、5MHzの繰り返し(200ns)の1周期以上の時刻差計測には、周期数のカウントアップが必要になり、確実性が低下する。そこで3系統でのDMTD計測以外に、以前の第4世代の計測システムで利用していたタイムインターバルカウンター(Stanford Research Systems 社製SR620)による計測を1系統併用している。カウンターにより1時間に1回、1PPSの信号の時刻差を計測している。例えば、連続計測を中断したDMTDで再計測する場合は、カウンターで時刻差の初期値を測り、その後にDMTDで計測することにより、確実さと精度を両立させている。3系統のDMTD計測とカウンター計測により合計4組の時刻差データを得ることができ、各組で平均の原子時が計算される。この4組のデータは計測系が正常であれば、ほぼ同じ値を示すはずであり、計算機で相互の差分を常時比較することにより計測系の異常(入力信号の状態も含む)を自動判定することができる。差分の最も小さな2系統を選びその平均値をUTC(NICT)が目標とする平均原子時(TA)としている。通常は3系統のDMTD計測間で値が良く一致するので、それらからTAが決まる。現在、UTC(NICT)を目標のTAに収束させる手順としては、まず、原振の水素メーザの過去10日間の周波数変動の一次近似とTAとから、水素メーザの周波数の調整量を決定している。次いで現在から将来の10日間でその調整量に到達するレートに従った周波数調整値を、8時間ごとに周波数調整器に入力して値を更新している。データ処理法の詳細については参考文献[2]–[4]を参照いただきたい。2.3協定世界時への貢献と同期以上の方法を用いて、UTC(NICT)はNICTの平均原子時(TA)を目標に周波数調整される。さらにUTC(NICT)に9時間を加えて日本標準時JSTとなる。UTCについて既に各種の文献があるので詳細はそちらを参照いただきたい[10]。セシウム原子を利用した現在の秒の定義は、1967~1968年に国際度量衡総会(CGPM)で決定された。時刻については1970年の国際度量衡委員会(CIPM)で、国際原子時(TAI)が定義されている。TAIはその原点を世界時UTの1958 年1月1日0時0分0秒に一致させている。その後は世界の70以上の時刻・周波数機関で運用される原子時計の指示値を基に、BIPMで決定されているが、地球の自転に基づいて決められる世界時とは原点以後は無関係である。そこで地球の自転にも合わせた時系として、TAIと同じ歩度(1秒の長さ)を保ち、1秒単位の時間挿入あるいは削除(うるう秒)を行うことで、世界時UT1との差を0.9秒以内としたUTCが利用されている。UTCはTAIと整数秒だけ異なっており、2019年8月1日現在はUTCはTAIに37秒遅れている。TAIが決定されるためには、世界中の原子時計の時刻を比較する必要がある。時刻比較については本特集号でも5に詳しい解説があるので、そちらを参照いただきたい。BIPMではこの時刻比較の後、周波数安定度の高い時計に重みを付けて平均の時刻を計算する。さらにCCTFの国際作業部会で認定されたセシウム一次周波数標準器と二次周波数標準器で確度評価された後に、TAIを決定している。BIPMで決定されるUTCとUTC(NICT)の時刻差図6 UTCとUTC(NICT)の時刻差図5 DMTDのノイズ(周波数安定度)(参考文献[8]で発表したものを転載)14   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)3 ⽇本標準時システム

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