1本がAZ室にあるコネクタ部分で断線していることが判明した。このコネクタは多極のコネクタであり修理にはコンタクトの専用引き抜き工具等が必要となるため専用工具等を用意して、12月28日に断線部を修理して復旧した。不良箇所の判明から復旧まで約3か月を要した。工事により鹿島34mアンテナが使用できない期間も保守、点検を行うことにより前述の問題を発見、解決していたことで、工事が完了した平成25年(2013年)4月からのアンテナ立ち上げ時は順調に立ち上げが行われ、5月以降は通常通りに実験、観測を開始できた。もし、工事中に保守、点検を実施していなかったら、AZ軸角度読み取り系不良により少なくとも3か月は運用開始が遅れたと考えられる。上記の多数の故障を修理できた定期保守の重要性を再認識した。3.3アンテナ構造部、背面構造部鹿島34mアンテナではAZレールのみでなくアンテナ構造部の架台、主反射鏡の背面構造部等に腐食が進行しやすい部分があり、補修塗装が必要であったが、主鏡背面は20m以上の高所にあり、範囲が広範囲であることから、部分に分けて補修塗装工事を行ってきた。腐食進行の主な原因は、十分な素地調整(ケレン)作業が困難な入り組んだ構造物を現場溶接したことによると考えられる。その後も主鏡背面構造に発生した錆さびを補修する工事を行ってきたが、入り組んだ構造を持つ鋼材に対して現場で十分な素地調整を行うことは難しく、補修工事・塗装を行った箇所で数年後に再び錆さびが発生・進行してしまうようなこともしばしばであった。この対策として、平成27年(2015年)から素地調整軽減剤(大日本塗料:サビシャット)を使用した。これは素地調整後、完全には取りきれない錆さびに対して塗布することで、錆さび層に浸透した湿気硬化成分が水分を取り込み、鋼材素地を不動態化して錆さびの発生を防止する素地調軽減整剤である。補修後の発はっ錆せい防止に一定の効果はあったように見られる。主鏡背面構造部と主鏡(反射)パネルはナットプレートと呼ばれる部品(鋼材)で結合されている。アンテナ主鏡を構成する約350枚の主鏡パネルすべてに4–6個のナットプレートがついているが、主鏡外周にあるナットプレートは風雨の影響を受けて腐食の進行が早く、1996年頃には一部で朽ちて形が無くなりかけたものも発見され、1999年の補修工事以降、工事の際に順次ステンレス製のナットプレートに交換した。この作業のためには、主鏡パネルを取り外してナットプレートを交換し、再びパネルをアンテナに戻す必要があった。精密な設計面精度(標準偏差RMS0.17mm)を持つアンテナの性能を損なうことなく主鏡パネルを元に戻すため、隣接パネルを基準にデプスマイクロメータ等を使用してパネルの高さを測定し、パネルの取り外し前後でパネルの高さが変わらないように復元した。主鏡の内周にあるナットプレートは腐食があまり進行していなかったためナットプレートの交換は行わず、次善策としてユウレカのグレードWRN(粘性が高い)をナットプレート周囲に塗布して水や空気と接触を防止し、これ以上の腐食進行を遅らせるように工夫した。2008年11月にナットプレートへユウレカWRNを塗布したときの状況を図5に示す。手前がナットプレート周囲にユウレカを塗布したもので、左奥側に小さく見えるナットプレートは以前の補修工事時に交換済みであり、ユウレカを塗布していない。アンテナの主鏡反射鏡パネルは、パネル背面フレームに固定されたナットプレートが背面構造部から立ち上がるボルトと結合してパネルを固定する構造となっている。ユウレカ塗布後、約11年経過した2019年8月のナットプレート付近の典型的な状況例を図5(右)に示す。ユウレカがひび割れて白色塗料が少し見えている部分もあるが、ユウレカは塗布時の原形をほぼ維持しており、ナットプレート腐食の進行を十分に防止できている。背面構造部は、点検時や補修工事を行う際に仮設足場を取り付けたり、作業員の足場となったりすることを考慮すると、滑ると事故の原因となりかねないため油脂類の使用は極力避けたいところである。図5のユウレカ塗布11年経過した背面構造部側のボルトの根元には、塵じん埃あいが付着して少し黒くなっていることからユウレカWRNは多少油分が溶け出しているようであるが、その下の角形台座の方まで黒くなっていることはなく、また足が滑るような背面構造部への油脂付着は認められていない。鹿島34mアンテナは、丘の上にあるため比較的風が強く、また近隣に住宅も増えていることや気候変動による台風の大型化などを考慮して、安全対策には十二分に配慮してきた。アンテナ構造部、主鏡背面構造部の錆さびの進行について把握するため、2009年及び2015年に作業請負により錆さびの調査を実施している。2016年に、高所作業車運転資格を持つ職員自ら点検図5 ナットプレートへのユウレカ塗布(左)、ユウレカ塗布約11年後(右)1975-6 鹿島34 mアンテナの維持管理
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