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等を行った(図6)ところ、地上からは目視が困難な高い位置にある主鏡背面構造に進行した腐食箇所が多く見つかった。これを受けて、平成30年(2018年)に主鏡背面構造の補修塗装工事を実施した。この工事では、主鏡背面構造の一部鋼材の切断・交換の必要があることが事前に予想され、以前のような隣接パネルを基準とする面調整では不十分なことから、静止衛星の電波を使ったホログラフィ法によるアンテナ鏡面の高さ測定と調整を計画・準備し、実施した。まず、工事1年前の平成29年(2017年)にホログラフィ観測[4]による鏡面測定を複数回実施し、その測定の安定性と精度を確認した。平成30年に一部鋼材の切断交換を含む主鏡背面構造の補修塗装工事が実施され、工事後にホログラフィ法を使った面調整を行った。調整作業は、ホログラフィ観測(図7)による面の高さ測定と補正量計算を主に夜間に行い、日中に反射鏡パネル調整を繰り返し実施して、反射鏡パネルの高さ(光路長)を均一に調整した[5]。工事前の光路長RMS(Root Mean Square)約1.3mmから調整後は0.3mm RMSに改善した。このパネル面高さ調整は、主鏡表面の穴からボルトを回して調整する機構が備わっているものの、アンテナ設置後1度も使われたことがなく、以下のような準備作業が大きな仕事であった。パネル調整では、先ずボルトのネジ山清掃が必要であった。この作業は主鏡背面からしか行えないため、工事足場のあるうちに作業を行う必要がある。パネル調整ボルトは、位置調整のためピッチが小さいボルトが使用されている。多くのボルトとナットプレートの隙間には細かい塵じん埃あいやこれまで行われた塗装の塗料が詰まっており、高トルクをかけて無理に回すとボルトとナットが噛み合い固着する。こうなると左右いずれも回転できなくなり、戻そうと回転させると軸が破断するといったことが作業の初期にあった。そこで、ボルト溝の汚れが少ない方にボルトを回してナットプレートを動かし、現れたネジ山の塗装などを電動ワイヤーブラシ等で清掃・注油等を繰り返し行い、ある程度スムーズに回転できるまで清掃するといった地道な作業が必要であった。塗料の除去・清掃が困難でスムーズに回転できないボルトについてはナットプレートとセットで交換した。パネル調整は、内周の鏡面傾斜の小さい箇所では図7(右)に示すようにパネル表面から調整穴にレンチを入れて行う。調整作業は表面側からの方が効率良く作業できるため足かけを工夫するなどしてなるべく外周に近い所、つまり傾斜が大きくなる所まで表面側から調整を行ったが、それでも外周に近い所は傾斜が大きく鏡面上での作業が困難なため、図7(中)に示すように背面側から仮設足場の上で調整を行い、アンテナを回転させ仮設足場の位置に合わせ、アンテナ全周を対象として作業した。ボルト調整量は、ホログラフィ観測によりボルト位置での調整量を求めた後、ボルトの回転数に換算して指示書を作成し、現場で容易に調整できるようにした。仮設足場は、アンテナの駆動範囲内に設置されており何らかの故障・エラーにより足場とアンテナが衝突する恐れがあるため、ホログラフィ観測中はアンテナが見やすく、かつ、直ちにアンテナを停止できるアン図6 高所作業車による背面構造部の腐食調査図7 ホログラフィ観測中の34mアンテナ 左は主鏡背面構造部でパネル調整を行うための仮設足場(左)、仮設足場上でのパネル調整ボルト清掃・鏡面調整(中)、反射鏡表面側からのパネル調整(右)198   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)5 時空標準計測・⽐較技術

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