整数をとる。静磁場による周波数シフト量はBreit-Rabi公式により記述される [19]。22242ただし、、 (1)ここで、 は基底準位間の周波数差、 は核スピン、 は核 因子、 はランデ 因子、 はボーア磁子である。50 mT以下の静磁場においては、ゼーマンシフトの大きさは磁気量子数 にほぼ比例する[19]。そのため、外部磁場による外乱を最小限にするために、1次のゼーマンシフトが0になる最も静磁場に鈍感な の遷移を時計遷移として利用する。32準位(精密)モデルによるシミュレーション 3.1 計算モデル本解析では、実際のアルカリ原子の振る舞いをモデル化するため、バッファガスとして希ガス(ArやNe)が封止されているアルカリ原子を解析対象とする。バッファガスはアルカリ原子の壁面衝突緩和を防ぐ役割がある [20]。計算を簡単にするために、ガスセル内部での光減衰や内部磁場の不均一性は無視し、光軸方向やビーム径方向の空間的なメッシュは切らない。レーザ光源はD1線(894.6 nm)とする。セシウム原子の核スピンは9/2であることから、全角運動量量子数 は3もしくは4である。したがって、D1線の計算に必要な準位数は基底準位16準位、励起準位16準位の合計32準位となる。3.2 計算方法CPT共鳴の吸収スペクトルの計算は密度行列解析を用いて行われる [21][22]。本研究では、セシウム原子のD1線における32準位すべての準位を表現するために、各準位に対して番号付けを行うと、密度行列は以下のような32 × 32の行列となる。 ⋯⋮⋱⋮⋯ (2)密度行列では、対角項がポピュレーション、非対角項が準位間のコヒーレンスとして表現される。なお、遷移選択則が成り立たない準位間のコヒーレンスは無視して計算を行う。密度行列 の時間発展は量子Liouville方程式に従う [23]。ℏ (3)ここで、 は交換演算子、右辺の第一項の はハミルトニアン行列、第二項の は緩和項である。まず、第一項のハミルトニアン行列について述べる。ハミルトニアン行列は原子の内部エネルギー構造と外部振動電場によるエネルギーによって、以下のように表される。 (4)ここで、 は各準位の固有エネルギーである。固有エネルギーはD1線の準位構造及び静磁場によるゼーマンシフトで決まる。第二項は振動電場による項である。 は原子の電気双極子モーメント、 はレーザ光による振動電界の電界強度である。電気双極子モーメント は次式で表される。 (5)ここで、CGC は各準位間におけるClebsch–Gordan係数である。Clebsch–Gordan係数は遷移前後の2つの状態の量子数(磁気量子数 、全角運動量量子数 )で決まり、各準位間で値が異なる。 は遷移双極子行列要素であり、セシウム原子のD1線の場合、2.7020(50) × 10−29 C·mである [18]。 と の積は、一般にラビ周波数Ω で表現され、以下のように表される。Ωℏℏ2 (6)ここで、ℏ は換算プランク定数(/2) 、 は光強度、 は真空の誘電率、 は光速度である。式(3)右辺第二項の緩和項について述べる。緩和はD1線の電気双極子緩和と基底準位間の磁気双極子緩和の2つに大きく分けられる。電気双極子緩和は励起準位62P1/2から基底準位62S1/2への緩和である。バッファガスが封入されている場合、セシウム原子の自然3図2 セシウム原子(133Cs)のD1線(894.6 nm)の準位構造、本研究が対象とする多準位モデルF=3F=4F=4-1-2-3-401234-1-2-3-401234-1-2-3012362S1/262P1/29 192 631 770 Hz1.167 680 GHzF=3-1-2-30123σ+2096-2 原子時計チップ:量子部設計のための高速シミュレータの提案
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