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放出率よりもバッファガスとの衝突緩和が大きくなるため、電気双極子緩和はバッファガスとアルカリ原子の衝突緩和が支配的となる [24]。バッファガスとして、希ガス(Ne, Ar)を用いた場合、この緩和過程は双極子–励起双極子衝突(Dipole-Induced dipole collision)に分類され、各準位間のD-ID衝突による緩和率はClebsch-Gordan係数の2/5乗に比例する [25]。基底準位間の磁気双極子緩和は、アルカリ原子同士のスピン交換緩和、壁面との衝突緩和、バッファガスとの衝突緩和に分類される。ただし、スピン交換衝突と壁面衝突は緩和時にスピン伝搬があるため位置依存性があり、空間メッシュを切らない本解析では扱えない。そこで本解析では、これらすべての衝突緩和が摂動的な緩和であると仮定し、緩和率はClebsch-Gordan係数の2乗に比例するとして解析を行う。以上のハミルトニアン行列、緩和項を式(3)に代入する。ここでは、定常状態解析を行うため代入した式の左辺を0する。ポピュレーションの規格化条件(∑) を加えて解くと、すべての密度行列要素 が導出される。導出した密度行列要素 から吸収係数α を求められる。次式により、密度行列要素 と各サイドバンドに対する吸収係数α が関係付けられる。αℏω∑ΩIm 3(7)ここで、ℏω は光子1個のエネルギー、 は単位体積当たりの原子数、 は各サイドバンドの光強度(単位時間に単位面積を通過する光子のエネルギーの総量)である。吸収係数α が求まることで、透過光強度が計算できる。ガスセル内部でLambert-Beerの法則が成り立つと仮定すると、透過光強度を 、光路長を としたとき、下式となる。 (8)以上のようにして、セシウム原子のD1線におけるCPT共鳴の定量的な透過光強度が求まる。3.3 計算例円偏光σ+励起のときのCPT共鳴の透過光強度スペクトルの計算例を図3に示す。実験条件、計算条件については文献 [26]を参照のこと。レーザ光から照射される全光量のうちCPT共鳴に寄与する1次のサイドバンドの割合は60%として計算をしている [27]。静磁場は16μT印加されており、静磁場によって縮退が解け、7本の共鳴に分裂しているのが確認できる。また、円偏光σ+励起では、ポピュレーションは磁気量子数 が大きい方に偏るため、磁気量子数 が大きいほどCPT共鳴の振幅も大きくなる。各ゼーマン副準位のCPT共鳴の強度は、計算と同傾向を示し、実験結果と計算結果の比較において20%以内で一致している。一方で、共鳴線幅は実験結果と計算結果で異っている。=0 のCPT共鳴では計算と実験は20%以内に収まっているものの、 =3 のCPT共鳴では約60%の誤差が生じている。この理由は2つ考えられる。1つはガスセル内の静磁場の不均一性である。磁気量子数の絶対値が大きいほど共鳴線幅の計算結果と実験結果の差は大きくなる傾向にあることから、実験においてガスセル内に磁場勾配があるなど磁場の不均一が生じていると考えられる。もう1つは、CPT共鳴の時間応答性である。計算ではCPT共鳴は左右対称であるのに対して、実験では非対称になっている。これは、計算では定常状態解析しているのに対し、実験ではS/N比が高いスペクトルを得るために、ランプ関数形状で1秒間に25回、500 kHzの掃引幅で周波数掃引している。この周波数掃引によって生じるCPT共鳴の時間応答が原因で非対称になっており、得られた共鳴線幅が実効的に広がったと考えられる。そのため、ガスセル内部の空間分割を行い静磁場の不均一性を考慮することやCPT共鳴の時間応答性を考慮した計算を行うことで、計算結果と実験結果の差はさらに小さくなると考えられる。時間応答の高速解析アルゴリズム4.1 従来のアルゴリズムの問題点CPT共鳴の解析では定常状態解析が主であり、Λ型3準位の静特性の代数解析は2011年にT. Zanon-Willetteらが報告している [21]。CPT共鳴の時間応答特性が系統的に数値解析できるようになったのは比較的最近の2015年である [28]。例外として、Λ型3準位を2準位に近似して時間応答を解析的に解くことが4図3 円偏光σ+励起のときのCPT共鳴スペクトルの計算結果と実験結果(参考文献 [26]より引用)2.752.762.772.782.79-200-150-100-50050100150200Light Intensity (mW/cm2)Detuning Frequency (kHz)MeasurementCalculation210   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)6 時空標準技術の社会実装を⽬指して

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