報告されている [29]が、この方法では励起準位を無視して計算するため、光強度に関連する効果(光シフトやレーザ光による線幅広がり)は考慮することができず、汎用的な解は得られない。CPT共鳴の時間応答の数値計算が発展しなかった主な理由は基底準位間の緩和率(< 数kHz)と基底–励起準位間の緩和率(> 数100 MHz)に5桁から8桁程度の大きな開きがあるためである。解を得るために、オイラー法やルンゲ・クッタ法など逐次的な数値解法を適用すると、CFL(Courant-Friedrichs-Lewy)条件を満たすために非常に細かい時間ステップで計算する必要がある。そのため、1つの解を得るために膨大な計算時間(数日程度)が必要であることから、時間応答の数値計算は進展してこなかった。 この問題に対し、2015年に筆者は時間応答の解を得るために、周期境界条件を加えることで高速に解を得るアルゴリズムを報告した [28]。この方法は、時間周期性がある解のみを対象とし、周期を微小区間に分割して時間発展の数値解を求める方法である。翌年の2016年には、別のグループからこのアルゴリズムの一般化が報告され、これにより系統的に時間応答特性の数値解析ができるようになった [30]。しかし、この方法は、原理的に時間分割による不連続によって量子化誤差やエリアシング(Aliasing)が発生し、計算精度低下の要因となる(図4)。量子化誤差やエリアシングは分割数が大きいほど小さくなるが、分割数Ncが多いほど計算時間は増加する。そのため、計算時間と計算精度にはトレードオフ関係が成り立つ。CPT共鳴の典型的なS/N比は50 dBから70 dB程度であるため、ノイズを含めた解析をする場合、最低でも数値誤差は60 dB以下に抑える必要がある。したがって、S/N比やノイズ解析などにおいて、計算時間と精度のトレードオフは大きな障害となる。そこで、我々は、計算時間と計算精度のトレードオフを解決するために、ガラーキンスペクトル法に基づいたCPT共鳴の時間発展解析法を提案した [31]。ガラーキンスペクトル法は重み付き残差法の一種であり、圧電デバイス(水晶振動子など)の振動解析などに広く使われる方法である [32]。この方法では、解を連続関数として扱うため、時間分割による不連続は生じず、高精度かつ短時間で解が求められる。4.2 計算方法4.2.1 計算モデルと支配方程式本計算においては、図5に示すようなΛ型3準位系を計算モデルとして採用し、その周期的な時間発展を計算する。ここで、|1⟩ 及び|2⟩ はそれぞれ62S1/2の基底準位 と に対応し、|3⟩ は励起準位62P1/2に対応する。励起–基底間のすべての緩和率ΓΓΓ であり、各準位への緩和率はΓΓ, γΓ/2 である。基底準位間の緩和率はγ であり、これは励起–基底準位間の緩和率よりもとても小さい(γ≪γ) 。3準位系のとき、各準位のポピュレーションと各準位間のコヒーレンスを表現するために、その状態は3 ×3の密度行列で表される。密度行列 としたとき、式(3)と同様に、密度行列の時間発展は量子Liouville方程式に従う。 はハミルトニアン行列をとし、 は各準位のエネルギー構造や、光強度(ラビ周波数)、レーザの周波数離調のパラメータが含まれる。 は緩和行列であり、壁面やバッファガスなどの衝突による緩和とする。そして、式(3)を回転波近似(Rotation Wave Approximation, RWA)すると、式(3)は以下のような9次の1階偏微分方程式に書き換えられる。|| (9)ここで、| は3×3の密度行列を9次の列ベクトル化したものであり密度ベクトルという。は9×9のハミルトニアン行列で緩和項を含んでいる。計算を簡単化するために、密度行列 はエルミートであることを考慮すると、密度ベクトル| は以下のように定義できる。|,,,Re,Re, Re,Im,Im,Im (10)このようにすることで、密度行列の要素をすべて実数で扱うことができる。また、このときのは以下のようになる。図4 従来法と提案法の比較(a)時間軸表示、(b)周波数軸表示Frequency detuning ((δpδc)/2π)tfdevTmod/NcTmodffs (= Nc/Tmod)SincenvelopeImage signalOriginal signal2fsFrequency (Hz)Time (s)Magnitude (dB)Conventional methodProposed method==fNyquist===(a)(b)2116-2 原子時計チップ:量子部設計のための高速シミュレータの提案
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