万分の1の計算時間で計算結果を得ることができる。提案法により、計算時間が大幅に短縮されたことから、従来法では計算が困難であったノイズ解析が行えるようになった。計算例として、図7の条件にレーザ周波数ノイズを加えたときの結果を図9に示す。レーザ周波数ノイズは、CPT共鳴のS/N比劣化の主要因であることが知られている [34]。これまでの解析ではCPT共鳴の信号とノイズを個別に計算して、それら結果を足し合わせて解析を行っていた。一方、提案法では、個別ではなく、式(3)に基づき同一の方程式から解を導くことができる。この結果で注目すべきは共鳴中心( 0, 0.5 ,1)の時のノイズ量であり、共鳴状態でノイズが大きく減少していることが分かる。これは、CPT共鳴の状態ではレーザと原子で相互作用しなくなるため、レーザ周波数ノイズに起因するFM-AM変換ノイズが小さくなったと考えられる。この傾向は、従来の信号とノイズの重ね合わせでは再現できず、本解析法により精緻な計算が実現できていることが本図からも分かる。チップ化に適した共鳴の検出方法の開発5.1 従来の共鳴検出方法の課題原子共鳴のS/N比が高く、共鳴線幅が細いほど原子時計の短期安定度は改善される [35]。しかし、細い線幅の共鳴は、共鳴への周波数捕捉帯域,いわゆるロックレンジが狭いという課題を有する。狭いロックレンジに着実に周辺回路の周波数を合わせ込むためには、周辺回路に精密な周波数制御技術が要求される。精密な周波数制御を行うには性能の良い局部発振器が必要になるため、高安定化するほど、周辺回路の消費電力とコストが増大してしまう。そこで、我々はCPT共鳴の位相に着目し、共鳴検出方法として位相変調法を提案した [36]。位相変調は安定度を損なうことなく、従来法よりも広いロックレンジが得られることが特徴である。また、変調方式を変更するのみで実現できるため追加の光学素子や電子回路を必要としないことも大きな利点である。本章では、前述で述べたシミュレータを用いてロックレンジの解析を行った。また、ロックレンジの拡大効果を検証するために、面発光半導体レーザと87Rbガスセルを用いて、比較検証を行った。5図1 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★0.00.20.40.60.81.00.00.51.0Light intensity (a.u.)Time t/TmodNc= 32Nc= 128Nc= 5120.00.20.40.60.81.00.00.51.0Light intensity (a.u.)Time t/TmodNp= 8Np= 32Np= 128 図7 CPT共鳴の時間応答( = 10 kHz)(a)従来法図8 従来法と提案法の計算時間に対するL2ノルムによる計算誤差 ( =10 kHz)0.0010.010.1110100Relative error (dB) Relative calculation time (a.u.)0-20-40-60-80fdev= 10 kHzConventional methodProposed method図9 レーザ周波数ノイズ(LFN: Laser frequency noise)を考慮したときのCPT共鳴の時間応答特性0.00.20.40.60.81.00.00.51.0Light intensity (a.u.)Time t/Tmodwith LFNw/o LFN(b)提案法214 情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)6 時空標準技術の社会実装を⽬指して
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