HTML5 Webook
221/258

5.2 CPT共鳴の検出方法CPT共鳴を用いた原子時計は、従来の二重共鳴型ルビジウム原子時計と同様に、RFシンセサイザに周波数変調(FM: Frequency modulation)をかけてスペクトルの中心周波数を検出する。より具体的には、変調周波数と透過光強度信号の同期検波を行うことで、中心からの周波数差に応じた正負のエラー信号が得られる。周波数変調においては、周波数変調の速さは基底準位間の緩和時間よりも十分に小さいことが求められる [35]。この制限は、CPT共鳴及び二重共鳴型共に、透過光強度変化が準位間のポピュレーションの移動に依存しているために生じている。一方で、位相変調(PM: Phase modulation)は原子により生じる位相変化(すなわち分散)を検出する方法である。RFシンセサイザの位相を高速に変化させることで、原子により生じた位相遅延と参照信号との干渉信号を得ることができる。この方法では、共鳴検出は位相遅延の信号と参照信号とのビートに基づいているため、ポピュレーションの移動による制限は受けない。そのため、高速な共鳴検出が可能となる。5.3 計算方法計算モデルは前章で用いたΛ型3準位を採用する。ただし、対象とするアルカリ原子は実験と比較するため87Rbとする。そのため、2つ基底準位は52S1/2の2, と とし、励起準位は52P1/2とし、円偏光σ+で励起する。バッファガスとして4.0 kPaのN2を封入しており、励起準位からの緩和率はバッファガス衝突により490 MHzに広がっている [24]。変調深さは、周波数変調ではCPT共鳴の半値全幅と同じにし、位相変調では0.8 radとしている。5.4 実験方法位相変調の特性を検証するために、図10のような実験装置を構築した。ガスセルは円筒形で、長さ22.5 mm、直径25 mmのものを使用した。ガスセルには同位体選別された87RbとバッファガスとしてN2が4.0 kPa封入されている。ガスセルは恒温槽内に設置されており、60.0℃に温度を安定化した。ガスセルの周囲にはソレノイドコイルが配置され、レーザ光軸方向に静磁場を印加した。レーザ光源としては、シングルモードの795 nmの面発光半導体レーザを使った。直接変調するためのマイクロ波強度は–11.2 dBm、光強度とビーム直径はそれぞれ16 μW、3 mmであった。透過光強度はフォトディテクタで検出され、CPT共鳴が取得される。また、局部発振器として温度補償型水晶発振器を、周波数安定度を測るための周波数リファレンスとしては水素メーザを用いた。5.5 計算結果と実験結果5.5.1 共鳴近傍におけるエラー信号の解析図11にCPT共鳴の変調周波数 を変化させたときの信号強度特性の計算結果を示す。周波数変調では信号強度はカットオフ特性を持つことが分かる。カットオフ周波数は共鳴の半値半幅 により決まっており、それ以降では–20 dB/decで振幅が減少する。一方で、位相変調では、信号強度特性はバンドパス特図10 実験装置構成Solenoid coilLinear polarizerPDRFgeneratorCurrentdriverLock-inamp.Bias TBMagnetic shieldFunctiongenerator44.1 kHzVCSEL87Rb + N2CellRF frequency3.4 GHzλ/4Lock-inamp.Functiongenerator10 MHzTCXOLoopfilterLoopfilterPM: 100 kHzor FM: 270 HzRef. inλ=795 nmFrequencycounter σ+DC current1.0 mAMod. inH-maser図11 変調周波数 に対するCPT共鳴の信号強度特性Relative signal amplitude1001k100k10M1G110010-110-210-3101Modulation frequency fmod(Hz)PM calc. FM calc.図12 共鳴近傍におけるエラー信号特性-20-1001020Error signal (a.u.)Frequency detuning (kHz)PM calc. FM calc.02156-2 原子時計チップ:量子部設計のための高速シミュレータの提案

元のページ  ../index.html#221

このブックを見る