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性を示している。変調周波数が共鳴の半値半幅よりも低いとき振幅は周波数変調よりも小さいが、半値半幅よりも大きいと振幅は周波数変調と同程度となる。数百MHz以上の光遷移の緩和率よりも大きい変調周波数の領域では共鳴振幅は減少傾向に転じる。このように、変調方式によって利用できる変調周波数の帯域は異なる。図12に周波数変調( = 270 Hz)と位相変調( = 100 kHz)におけるエラー信号の計算結果を示す。横軸は周波数離調δ を示している。2準位系におけるエラー信号の導出を参考に代数解析を行う [37]–[39]。CPT共鳴は半値半幅 のローレンツ形状の共鳴 [17]とし、変調周波数ω は よりも大きいとすると、位相変調のエラー信号は複素電気感受率χ を使って以下のように表される。εχ2(23)ここで、K はサイドバンド強度に依存する係数である。一方で、変調周波数ω を にしたときの周波数変調のエラー信号は以下のように表される。εKωImχ 2 (24)これら式より、共鳴内 (|δ/γ|) におけるエラー信号は同傾向を示し、共鳴中心() におけるエラー信号の傾きは2(25)となる。原子時計の性能で重要となる短期周波数安定度は、共鳴近傍における傾きに依存するため、位相変調と周波数変調の周波数安定度は同程度になると考えられる。一方で、周波数離調が大きいとき (|δ/γ|) は、位相変調のエラー信号周波数変調よりも大きい値が得られる。これは、共鳴外におけるエラー信号が、位相変調では1/δ に比例して減少するのに対して、周波数変調では1/δ に比例して減少するためである。エラー信号の大きさがノイズレベルよりも大きければロックレンジは拡大するため、位相変調の方がロックレンジ拡大に有利だと考えられる。5.5.2 広範なエラー信号スペクトルの比較エラー信号特性の実験結果と計算結果を図13に示す。同図より、実験結果(図13(b),(d))では、▼に示されたいくつものピークが観測されることが分かる。これらはゼーマン副準位によるピークであるため、バイアス磁場強度を変えることでピーク位置が調節できる。計算結果(図13(a),(b))では、これらゼーマン副準位は考慮されていないため、時計遷移 () のみの結果が示されている。図13(a)では、●で示されるようにメインピークの他にいくつかのサブピークが存在する。これは、位相変調により生じたサイドバンドによるピークである。そのため変調周波数 の整数倍離れた位置にピークが生成されている。これらのピークは実験においても確認される(図13(c))。図13(c)と(d)を比較すると、ロックレンジが広がったことが確認できる。周波数変調では、エラー信号が共鳴から離れると急減してノイズレベル以下となり、図13 位相変調と周波数変調のエラー信号(a)位相変調の計算結果、(b)周波数変調の計算結果、(c)位相変調の実験結果、(d)周波数変調の実験結果-300-200-1000100200300Frequency detuning (kHz)-300-200-1000100200300Frequency detuning (kHz)(a) PM calc.(b) FM calc.(c) PM expt.(d) FM expt.Error signal (a.u.)0000100 kHz (14.6 ppm)200 kHz(29.3ppm)6.8 kHz (1 ppm)6.8 kHz (1 ppm)1221001221011101Clock transitionZeeman sub-level transitionB = 10μTB = 10μT216   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)6 時空標準技術の社会実装を⽬指して

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