現在、FBARは携帯電話向けの高周波フィルタとして広く活用されており、無線通信規格の拡充に伴って5 GHzに達する高い周波数帯でもFBARフィルタの量産が報告されている[6]。87Rbの CPT共鳴を利用した小型原子時計では3.417 GHzが必要とされ、この周波数はFBARの量産ラインアップと既に適合していると言える。2.2 薄膜弾性波発振器の製作と評価FBARの使用は、MHz帯で動作する水晶発振器からPLL回路を用いた周波数逓倍処理によるGHz帯の信号を生成する必要をなくし、原子時計のマイクロ波発振器を大幅に簡略化する(図2)。本図において、発振器に使用する反転増幅器は65nm CMOSプロセスを用いて試作され、チップサイズは1×1 mm2である。図3は、新規に提案した発振器と従来の発振器(水晶と周波数逓倍回路とを組み合わせた発振器モジュール)とを比較したものである。本図より提案回路が従来の発信器と比べ大幅に縮小されていることが分かる。87RbのCPT共振を用いてFBAR発振器を安定化するためには、3.417 GHz近傍での発振が重要である。試作された発振器の発振スペクトルを図4に示す。本図より、所望の周波数にて急峻な発振ピークが確認される。ここで電源電圧を1 Vとしたとき、発振器の消費電力は9 mWであった。また、可変コンデンサのバイアス電圧Vctlを0 Vから1 Vへ挿引したときの可変周波数範囲は約390 kHzであった。図5は、図4の発振に対して位相雑音を計測した結果である。図5より、スプリアスの少ない滑らかな位相雑音特性が確認される。この結果はフィードバックループを持たないシンプルな発振器の回路構成に起因していると考えられる。図中、不要なスプリアスが一つだけ、観測されているが、これは、評価用ボードの配線に起因するものであり、チップ本来の応答ではない。また、図中に示される発振器の性能指数(FoM)は下式にて定義される。()20log10logoscoscdcfFoMLfPf(1)L(f)、fosc、及びPdcは、それぞれ、オフセット周波数fにおける位相ノイズ、発振周波数及び供給されるDC電力である。MEMSガスセルの開発ガスセル製造におけるMEMS技術の適用は、従来のガラスブローウィングや熱融着を用いた手工芸的なガスセル製造と異なり大幅な小型化を可能にする。また、ウェハープロセスでの生産は、製造コストにおいても大きなメリットを持ち、デバイスの平坦性から実装工程の簡略化も容易となる。図6は、本研究で作製したMEMSガスセルである。このガスセルでは、3 mm厚のシリコン基板に直径3mmの光学観測用スルーホールとそれに接続される2つのマイクロチャンバが作り込まれている。個々の3図3(a) 水晶振動子を利用したマイクロ波発振器 (b) クロオオアリ(7~12 mm) (c) 新規提案した圧電薄膜共振子(FBAR)を利用したマイクロ波発振器図4新規提案した圧電薄膜共振子(FBAR)を利用したマイクロ波発振器の発振スペクトル図5新規提案した圧電薄膜共振子(FBAR)を利用したマイクロ波発振器の位相雑音特性FBAR増幅回路(a)(c)水晶発振器周波数逓倍回路(PLL)1mm拡大図(b)12345cm振幅[dBm] 0-30-60-90-120-150-180周波数[GHz]中⼼周波数: 3.41729 GHzスパン: 2 MHz3.416793.417293.418293.416293.317791kオフセット周波数[Hz]10k100k1M10M0-40-80-120-160位相雑音[dBc/Hz] -115 dBc/Hz(FoM: -196 dB)-140 dBc/Hz(FoM: -201 dB)2216-3 原子時計のチップ化に向けた超小型集積部品の開発
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