チャンバには、固体Rb源とゲッターリボンとが格納され、厚さ1 mmのガラス基板を用いて陽極接合による封止がなされる。固体Rb源は、Rb酸化物と還元剤とからなる圧粉体であり、密封後レーザーを照射することでRbガスをセル内に生成する。小型ガスセルでは、一般にRb原子がセル壁面に高速度で衝突するのを防ぐため、不活性ガスをバッファガスとして封入する。本試作では、純窒素を圧力1.2 kPaにて封入している。図7に試作したガスセルの吸光スペクトルを示す。セル内のRbは同位体選別を実施していないため、85Rbと87Rbとが天然比にて混在し、本スペクトルでは8つの吸収ピークが観察されている。試料1は、バッファガスのない真空環境にて封止し、封止後ゲッターリボンの活性化を行うことで残留ガスの除去を行った。一方、試料2はゲッターリボンを用いずに圧力1.2 kPaのN2雰囲気中にて封止した。図7において、試料2の吸収ピークがN2の緩衝によってブロードとなっている様子が観測されている。試料2にて、87Rb (52S1/2F=1 - 52P1/2F=2)と87Rb(52S1/2F=2 - 52P1/2F=2)とを用いたCPT共鳴を観察した(図8)。試料1では、85Rb(52S1/2F=3 - 52P1/2F=2)及び85Rb(52S1/2F=2 - 52P1/2F=2)を用いてCPT共鳴を評価した。試料1では87Rbの吸収線を利用した場合、十分な強度のCPT共鳴は得ることができなかった。比較のために、図8ではCPT共鳴からの離調を共鳴周波数で正規化したものを評価軸としている。ここで、試料1及び2のCPT共鳴周波数は、それぞれ1.518 GHzと3.417 GHzである。本図より、バッファガスN2の導入によってCPT共鳴が効果的に狭線化されることが確認できる。原子時計動作の評価CPT原子時計動作を評価するためのテストベンチを図9に示す。理解を簡便にするため、ここではメインループのみを図示している[9]。MEMSガスセルは、磁界を印加するためのコイルと温度コントローラとを装備したパーマロイ製のシールド内に固定される。磁場は光路に平行に印加される。セルの加熱温度は、CPT共鳴のSN比を最大化するよう実験的に決定され、本実験では、80℃である。4図6 MEMSウェハープロセスを活用して試作されたRbガスセル図7 試作したMEMS Rbガスセルの吸収スペクトル図8 試作したMEMS RbガスセルのCPTスペクトル評価図9原子時計動作を評価するためのテストベンチの簡易的なシステムブロックスルーホール(原⼦共鳴観察窓)ゲッタリボンマイクロチャネル5 mm固体Rb源波⻑[nm]信号強度[arb. unit]試料2試料1信号強度[arb. unit]正規化離調周波数/fclk[10-5]-33-2-1210試料2試料1磁場制御系温度コントローラ#2VCSELループフィルタフォトディテクタBias-T電流ドライバ温度コントローラ#1外部周波数観測系MEMSRbガスセル周波数判別器FBAR発振器222 情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)6 時空標準技術の社会実装を⽬指して
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