図10(○)に、FBAR発振器を自立動作させたときの周波数安定度を示す。図10より、FBARとCMOS回路の温度ドリフトにより、平均時間の増大に伴って、周波数分散(アラン分散*4)が徐々に増大していく様子が確認される。図11(●)は、MEMSガスセルからのCPT共鳴を用いて、FBAR発振器の発振を安定化した結果である。安定化により、平均時間100 s程度まで周波数の分散が0に漸近していく様子が観測され、原子共鳴による安定化(原子時計動作)が確認された。FBARとCMOSチップの接続は、本研究においてAuワイヤを利用しているが、このワイヤを延長することで周波数安定度を改善することができる。なぜならば、FBARへの直列インダクタンスが増大すると、調整可能な周波数範囲が拡大されフィードバック制御の電圧振幅が抑制される。この制御電圧の抑制は、 発振器からの非線形応答の低減に効果があるためである。実験の結果、図11(△)に示すように、平均時間1秒で2.1×10-11まで、周波数安定度が改善された。ガスセルのサイズの増大も周波数安定度の改善に有効である。MEMSガスセルを直径と長さがそれぞれ2.5cmのガラス管に置き換えると、平均時間1秒での周波数安定度は8.5×10-12まで改善される(図11□)。ただし、ガスセルサイズの増大は、チップ化を目指す我々の開発方針とは必ずしも適合しない。図12において、周波数安定度は10-12のオーダーで底を打つ。これはガスセルの温度特性による限界と考えられる。ガスセルの温度特性の改善にはバッファガスとしてArをN2に混合する手法や、Neをバッファガスに用いる手法が提案されており、今後の検討課題のひとつである[10][11]。結言我々は、原子時計の小型化を目的とし、マイクロ波発振器とMEMS Rbガスセルの開発を実施した。本案では、圧電薄膜共振子(FBAR)を利用したマイクロ波発振器を新たに提案し、原子時計動作に必要な3.417 GHzの直接発振に成功した。提案したFBAR発振器は、水晶発振器とPLL回路とを用いた周波数逓倍処理を必要としないため、極めてシンプルな構成である。また、提案したFBAR発振器は、65 nm CMOSプロセスを用いて試作され、3.417 GHzにおける基本発振に対して、位相雑音は–140 dBc/Hz@オフセット周波数1 MHzであり、消費電力は9.0 mWであった。さらに、開発したFBAR発振器とMEMSガスセルとをCPT原子時計システムに組み込み、持続的な原子時計動作の可能性を評価した。その結果、平均時間1秒にて周波数短期安定度2.1×10-11を得た。この値は、市販の原子時計モジュールに対して、1桁程度、高い周波数安定度である。本研究開発の成果は原子時計のチップ化に向けた重要な前進であり、今後、周辺回路の集積化と新規ガスセル構造の提案と合わせ、原子時計システムの更なる小型・集積化を進めていく。謝辞貴重なFBARチップを提供してくださった太陽誘電株式会社:西原時弘氏、谷口眞司氏、太陽誘電モバイルテクノロジー株式会社:上田政則氏に深く感謝を申し上げます。また、Rb固体源のサンプル提供を快諾くださったSAES Getters S.p.A:Marco Moraja氏、戸田道夫氏に深く感謝申し上げます。5図10 開発したFBAR発振器とMEMS Rbガスセルを用いた時計動作評価図11周波数安定度評価の結果ワイヤ延長による効果(△)、セル容量の増大による効果(□)、参考特性(前出図8(●))10-510-610-710-810-910-1010-1110-12100101102103平均時間[s]アラン分散yFBAR発振器の⾃⾛(Free-running)特性CPT共鳴で安定化したFBAR発振器10-1010-1110-1210010110210-1平均時間[s]アラン分散y2236-3 原子時計のチップ化に向けた超小型集積部品の開発
元のページ ../index.html#229