はじめに時間・周波数の標準及び位置の基準はあらゆる計測の基盤であり、世界的な標準値の維持と共有がなければ生活や産業を支える各種先端技術に大きな支障を生じる時代である。この技術分野においては、時間も位置も国際標準や基準値にトレーサブルでないと計測の信頼性を評価されないこと、国際標準や基準値の維持はグローバルかつ定常的な計測が支えていること、その実現のためには機関間で相互に助け合いながらレベルアップを目指すことが必須であり、特許による囲い込み等ではなく標準化を目指す方向であること、といった特色があり、これが国際枠組みによる活動のモチベーションにもなっている。時間・周波数標準に関する歴史的な経緯を見てみると、19世紀中頃の運輸・通信の発達が国際的な時刻ルールの共有を促し、その後、秒を含む国際的な計量単位(度量衡)を取り決める動きが進み、メートル条約(2参照)が締結された。これが現在の、時間・周波数標準を維持する国際的な枠組みの大元となっている。一方位置基準においては、宇宙空間での地球の動き(地球回転)を知るために19世紀末頃から天文台による天体観測が行われてきたが、VLBI技術の登場により測地精度が飛躍的に向上し、現在は各国のVLBI観測局が電波天体の定常観測データを国際地球回転・基準系事業(IERS、5参照)に提供している。世界測地系に準拠した地表における位置基準の構築に関しては、GPS衛星を利用した測地技術の進化とともに成熟したため比較的歴史が新しく、研究機関等のボランティア的活動により国際GPS事業(IGS、4参照)が発足したのは1994年である。IGSはその後各種測位衛星システムの登場に伴い、2005年に国際GNSS事業と改名し現在に至る。時空標準研究室及びその前身となる室・部においては、日本標準時の生成と供給・周波数標準の源となる原子時計の開発・測位衛星等を仲介とする高精度時刻比較技術の開発・VLBI技術の開発などに長年にわたり取り組み、上記の国際的な枠組みにも早くから参加してきた。時刻標準においては、総務省告示に基づき、NICTが生成する協定世界時UTC(NICT)に9時間を加えたものを標準時として標準電波や通信ネットワーク等を通じて日本国内に供給しており(NICTで1あらゆる計測の基盤となる時間・周波数及び位置の基準は、歴史的な各種変遷を経て確立された国際的な枠組みにより、国際標準値の維持と共有が実現されている。我々は、日本を代表する標準・研究機関として、上記の国際的な枠組みに継続的に参加し各種の貢献をしてきた。本稿では、時空標準に関連する国際的枠組みの概要と我々の貢献の実績について紹介する。The standards of time, frequency, and positioning are the foundation of all modern technology. They are maintained and shared by international framework which have been established through some historical transitions. We have been participating in such international frameworks and made various contributions as a representative research institute in this field in Japan. This paper gives an overview of international frameworks related to space-time standards and the achievement of our contributions.7 時空標準研究室における国際標準化活動7International Activities in Space-Time Standards Laboratory7-1 時空標準活動に関する国際的枠組みへの貢献7-1Contribution to the International Framework for Space-Time Standard Activities花土ゆう子 細川瑞彦 小山泰弘 根津ひろみ 小竹 昇 伊東宏之 藤枝美穂 後藤忠広 市川隆一 関戸 衛 井戸哲也Yuko HANADO, Mizuhiko HOSOKAWA, Yasuhiro KOYAMA, Hiromi NEZU, Noboru KOTAKE, Hiroyuki ITOH, Miho FUJIEDA, Tadahiro GOTOH, Ryuichi ICHIKAWA, Mamoru SEKIDO, and Tetsuya IDO2257 時空標準研究室における国際標準化活動
元のページ ../index.html#231