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正メンバーでもある。その設立経緯や組織構成で明らかなように、IGSは完全な非政府組織であるが、その実績を背景にGNSSを運用する主体であるプロバイダー(例えばGPSであれば米国政府、GLONASSであればロシア政府等)に対する、ICGにおけるIGSの発言力は極めて大きい。NICTは測地と時間・周波数の双方でIGSと関わってきた。測地分野では、1997年7月より小金井及び鹿島の2か所でIGS追跡局と呼ばれるGPS観測点を運用してきている。この観測の目的は大別して2つあり、その1つ目は対外的な活動としての世界測地系の構築と高精度維持である。全世界400箇所以上のIGS追跡局では毎日の連続観測がなされており、そのデータは世界数箇所のデータセンターに集約され、即日に各センターの匿名ftpサイトで無償公開される。IGSが提供する高精度衛星軌道・衛星クロック情報を用いてこれらのデータを解析することで、国際地球基準座標系(ITRF)として知られる世界測地系構築が実現されてきた。また、小金井あるいは鹿島のIGS点とその近傍のVLBI局(小金井11m局及び鹿島34m・11m局)と地上測量によりつなげることで、世界測地系と天球座標系との高精度変換も可能となっている。IGS観測局運用の2つ目の目的は、NICT時空標準研究室が行う各種観測の時間・空間の整合性を高精度に保つことにある。先に述べたVLBI観測局の局位置とIGS局との地上測量による結合成果は、1990年代半ばから2000年までの首都圏広域地殻変動観測計画(Key Stone Projectプロジェクト)、その後の地球回転パラメータの準リアルタイム決定、国際時間・周波数比較の高精度化において、VLBIとGPSの双方での継続的な観測が各プロジェクトの達成を側面から支えてきた。また、時間・周波数の面で言えば、NICTでも1990年代から積極的にGPS観測を取り入れると同時にその高精度化を目指した研究を進めている。特に、IGSとの関係では、1998年からBIPMとIGSの協力によるパイロットプロジェクトにより、IGS観測網に参画した世界各国の標準機関においてUTC(k)を基準とした観測が実現し、これによりIGSにおける衛星クロックオフセット推定の劇的な改善が達成された。この成果は、GPS測地では精密単独測位(PPP)の本格的な利用を促す原動力となった一方で、GPSによる時間・周波数比較の定常運用につながった。2019年6月現在において、IGSから提供される各種データは、時間・周波数分野でのGPSあるいはGNSS解析を通して、国際的な時間・周波数比較のみならず、NICT内部での関係施設間(NICT本部・神戸副局・おおたかどや山及びはがね山標準電波送信所)の時間・周波数比較を行ううえで、不可欠な存在である。さらに、国際的な研究開発の潮流を見てもGNSSやVLBI等の宇宙測地技術と時間周波数計測分野の連携は今後一層深まると予想され、その意味でもIGSとの連携が重要である。超長基線電波干渉法(VLBI)に関する国際活動    5.1はじめに複数のアンテナで受信する信号を干渉させて、天体観測における空間分解能を高める方法を電波干渉法と呼ぶ。それぞれのアンテナで受信した信号を干渉させるためには位相の情報(コヒーレンス)を保存する必要があり、共通の基準周波数信号を受信する複数の電波望遠鏡に分配して観測に使用する。この干渉法を拡張して、共通の基準信号を使う代わりに複数の電波望遠鏡それぞれに高安定な原子時計(水素メーザ原子時計)を使用することで、距離の離れた独立したアンテナ間で電波干渉計測することが可能になった。これがVLBI法である(図4)。VLBIは電波天文学を目的に開発されたものであるが、アンテナ間の信号の到達時間差(群遅延)を高精度で計測する方法が米国マサチューセッツ工科大学(MIT)で開発され[16]、大陸移動や地球の自転運動を高精度で測る宇宙測地技術として大きく展開する。アンテナ間の距離が離れているほど高い精度で天体の位置や地球回転を計測することができるため、VLBIは本質的に国際共同観測を志向する。地球表面を覆うプレートが相互に運動しているとするプレートテクトニクス理論は、古くは1910年代にドイツの5図4 VLBIの観測*1因みに、IGS活動を通してのIAGへの多大な貢献が認められ、Ruth Neilan氏はIAGのLevallois Medalを2012年に受賞している。230   情報通信研究機構研究報告 Vol. 65 No. 2 (2019)7 時空標準研究室における国際標準化活動

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