(MIT)・欧州(JIVE)・豪州(CSIRIO)・日本(NICT)から選出した4人を構成員とする議論タスクフォースを立ち上げ、VLBI共通データフォーマット(VDIF)を制定した。NICTからは関戸衛がVDIF制定メンバーの1人として参加し、VLBIデータのあるべき仕様を提案した。この背景には、観測装置からデータ処理・解析に及ぶ巨大なVLBIシステムと一般相対論を含むVLBI観測理論をすべて網羅して研究してきたRRL、CRLからNICTにいたる技術開発の経験と蓄積がある。5.4ソフトウェア相関器の開発と普及2000年代の後半までは、巨大なデータを処理する本格的な測地・電波天文観測手法のVLBIにおいて、ハードウェアによる専用計算機(相関器)が必須とされてきた。VLBIデータの相関処理を汎用計算機のソフトウェアで行う方式は、初期のVLBIの原理実証又はJPLの深宇宙探査機の軌道決定VLBI [18]の狭帯域のデータ処理に使われるのみであった。だがNICTでは先駆的に、高速な演算能力を持ち、急速に大容量化が進展する汎用計算機を使った相関処理にVLBI業界の目を向けさせる世界最先端の開発を進めた。IP-VLBIシステムと呼ばれるパーソナルコンピュータを用いてデータ取得から相関処理までを行うK5/VSSPターミナルの提案である[19]。この一環として近藤哲朗の開発した、どのような汎用計算機でも動作する相関処理ソフトウェアの構想と開発報告は、年報であるNICT-TDCニュースによって世界のVLBI研究者に知られ、世界有数のVLBI研究機関(欧州JIVE、豪CSIRO等)からライセンス提供の要望を受けることとなった。またK5/VSSPとは独立に、NICTの木村守孝が広帯域のデータを相関処理する高速ソフトウェア相関器GICO3 [20]を開発した。NICTがソフトウェア相関器の実用性を証明し、広く知られるようになると、豪Swinburne工科大学のA.Deller氏が汎用ソフトウェア相関器DiFXを開発した[21]。DiFX相関器はオープンソースとして公開され、英語圏のユーザサポートのワークショップを定期開催したことも功を奏して世界中に普及した。2019年現在、DiFXは測地VLBI技術開発の元祖であるMIT-Haystackや米国NRAO、欧州JIVEをはじめ、世界中のVLBIデータ処理で使用されている[22]。NICTはまずソフトェア相関器の流れを作り、DiFX相関器と同等上の性能を持つ高性能なソフトウェアGICO3ソフトウェア相関器を開発したが、Open Source戦略や言葉の壁のクリア、海外を含めたユーザサポート体制の整備など、NICTのソフトが世界中で使われるためには研究開発とは別のマネージメントが必要であった。GICO3は、国立天文台のFX相関器の後継機としてVERAシステムの相関処理システム[23]に採用され使用されている。また、NICTが開発した広帯域VLBIシステム[24]の相関処理に使用され、大容量のデータを高速に相関処理するために威力を発揮している。5.5個々の国際協力、共同研究IVSにおける国際活動のほかに、個別の国際共同研究には、中国:測地VLBI観測、フィンランド:ギガビットVLBIを使った共同観測、スウェーデン:リアルタイムVLBIによる迅速UT1計測、ロシア:パルサータイミング及びパルサーVLBI位置天文観測、イタリア:広帯域VLBIによる光周波数標準器間の周波数比較など、多くの共同研究が行われてきた。ここではその詳細は割愛する。その他の学術団体への貢献6.1国際天文学連合(IAU)IAUは、1919年に多くの団体を統合して設立された。分野ごとに分科会(Division)が設けられ、さらに各Divisionには細分化された委員会(Commission)が設けられている。DivisionとCommissionは2人目の会長となった海部宣男氏の下、2012年より大規模な改革の議論が始まり、その結果2015年に大幅な整理が行われたが、それ以前の体制では、NICTやその前身のCRL及びRRLからDivision I (Fundamental Astronomy)のCommission 31(時間委員会)において吉村和幸らが長く会員として参加し、またDivision X (Radio Astronomy)の活動にも多数参加するなどの実績がある。時間委員会では、特に1990年代に時系と基準座標系とを合わせて相対論効果を含めた様々な議論が行われ、2000年に開催された総会において決議された一連のIAU resolution Bシリーズに貢献している[25]。2000年以降は、パルサー時系の構築や原子時系の発展の影響などに活動の比重を高めるとともに、協定世界時のうるう秒問題にもワーキンググループを形成し、報告書を策定するなどの活動を続けてきた。この間、2003年に細川瑞彦がこの委員会のボードメンバーとなり、また2009年には副委員長、2012年には委員長を務めている。2012年、先に述べたDivisionとCommissionの改革議論の中、時間委員会は存続を申し出て、Division Iの中でも様々な議論が行われたが、結果として、2015年の総会終了後からはDivision I はDivision Aと名称を変えた。また時間委員会は、委員会としては廃止され、より具体的な活動目標を定めた作業部会(Working Group on Time Metrology Standards)として再編されることになった。この作62337-1 時空標準活動に関する国際的枠組みへの貢献
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