まえがき日本標準時システムの運用では、国内のみならず国際的なルール作りが重要となる。度量衡に関係する技術的な取決めは国際度量衡総会(General Conference on Weights and Measures:CGPM)などメートル条約に基づく会議で話し合われるが、制度的なルールについては国際電気通信連合(International Telecom-munication Union : ITU)で議論され、総務省を通じ日本国内に展開される。ITUは、その前身のひとつである万国電信連合(1865年創設)から続く最も古い国際連合の専門機関である。2017年11月現在で加盟国は193か国、800以上のセクター会員、関連団体及び学術会員によって構成され、主な活動については、無線通信部門(Radiocommuni-cation Sector : ITU-R)、電気通信標準化部門(Tele-communication Standardization Sector : ITU-T)及び電気通信開発部門(Telecommunication Development Sector : ITU-D)の3つの部門とその研究委員会(Study Group:SG)において実施される。日本標準時システムに関する議題は、ITU-Rにおいて科学業務を扱う第7研究委員会(SG 7)の作業部会の1つである標準時及び標準周波数の通報に関する作業部会(Working Party 7A : WP7A)で議論される。WP7Aでは、各国の時間・周波数標準機関及びその関係機関など類似した機関が集まるため、ITU内では比較的穏やかな作業部会である。ところが2000年頃から「UTCの将来問題」が研究課題となり、世界中を巻き込んだ一大論争を繰り広げている。ここでは、「UTCの将来問題」を中心にITUにおける活動について述べる。UTCとうるう秒協定世界時UTC(Coordinated Universal Time:UTC)の問題は宗教論争的な側面もあり、それぞれの事象が持つ意味を正しく認識しないと理解できない。そこで2では、「UTCの将来問題」を理解するうえで参考となる基礎的な事柄について記述する。2.1天文時と原子時時の概念は人類が生活するためのリズムの中から発生した。旧来、人類の生活リズムは、昼と夜といった地球の自転に基づくものから、季節や暦などに見られる地球の公転によるものまで、地球の回転(自転・公転)に基づくリズムが基本であった。この地球の回転に基づく時を天文時という。これら天文時ははるか昔から生活に密着した時刻として使われ続けている。国際的に1秒の定義が定められる1956年以前の時点では、実質的に1秒は地球の自転を基にして平均太陽日12時空標準の分野ではこれまでまとめられることがなかったITUにおける活動について、既に20年にわたり議論されている「UTCの将来問題」を中心に日本(NICT)のこれまでの貢献と活動をまとめる。あわせて近年、日本が中心となって活動しているタイムビジネス、長波標準電波の干渉問題についても整理して報告する。We would like to summarize the contributions and activities of Japan (NICT) to date on ITU works that have not been summarized so far, with a focus on the “The future of the UTC time-scale” which has been discussed over the past 20 years. In addition, I also report on the “Time Businesses” and the “SFTS protection criteria”, which Japan has been playing a central role in ITU in recent years.7-2 国際電気通信連合(ITU)における活動—「UTCの将来問題」を中心に—7-2Activities at the International Telecommunication Union (ITU) — Focus on the Future of the UTC Time-Scale —岩間 司 伊東宏之 井戸哲也 花土ゆう子 小山泰弘 細川瑞彦Tsukasa IWAMA, Hiroyuki ITO, Tetsuya IDO, Yuko HANADO, Yasuhiro KOYAMA, and Mizuhiko HOSOKAWA2377 時空標準研究室における国際標準化活動
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