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るものであり、刻みはTAIと正確に一致し、整数秒だけ時刻が異なる。UTCはうるう秒の削除あるいは挿入によりUT1と近似的に一致するように調整される原子時系である。これら3つの時系の関係を図1に示す。TAIは1958年1月1日以降、1日を86 400秒として連続して正確に時刻を刻んでおり、図1上部に黒い直線で示されている。一方、天文時は地球の自転を基準として時刻を定めているので、潮汐摩擦などの影響によって地球の自転速度が変化するため、長期的に観測すると1秒の長さが一定ではなく、図1に示す1958年以降は地球の自転速度が徐々に遅くなってきている。図1の中では黒い点線で示されている。図1の中でTAIから整数秒遅れ、UTとの差が0.9秒以内を維持している赤い実線で示される原子時系がUTCである。図1からわかるようにUTCはTAIと並行、すなわち、1秒の長さは等しいが、UTとの時刻差が0.9秒以内になるよう不定期に1秒時系がシフトする不連続な時系である。この不定期に挿入されている1秒のシフトがうるう秒である。うるう秒はITU-R勧告TF.460-6のAnnexにおいて以下のように定義される。うるう秒••うるう秒は協定世界時UTCと世界時UT1との差が0.9秒以上開かないようにUTCに対して1秒単位で挿入または削除する秒である。••うるう秒調整は第1優先順位として12月または6月、第2優先順位として3月または9月の最後に調整を行う。••うるう秒挿入は月の最後に23時59分60秒が挿入され次の0時0分0秒から次の月の最初の日が始まる。••うるう秒削除は月の最後が23時59分58秒で次の0時0分0秒から次の月の最初の日が始まる。••IERSは実施の少なくとも8週間前までにうるう秒調整実施の告知をアナウンスしなければならない。最後に、ITUで頻繁に用いられる用語として標準時系(standard time-scale)と参照時系(reference time-scale)がある。ITU-R勧告TF.460-6で規定されるUTCは概念的な時系であり、物理的な時系として存在するUTCは各国の時刻標準機関kが生成するUTC(k)である。日本ではNICTが生成する協定世界時UTC(NICT)などがこれに当たる。ここでUTC自身は概念的に定義されたstandard time-scaleであるが物理的に存在する時系ではなく、無線通信など実社会でリアルタイムに用いられているUTCはUTC(k)であり、UTC(k)は物理的に存在するため、不確かさ(uncertainty)を有するreference time-scaleである。UTCの将来問題UTCの将来問題について、UTCの導入からUTCの将来問題に関する研究課題の提起まで、WP7A及びSG7における議論から2012年無線通信総会(Radio-communication Assembly 2012: RA-12)まで、RA-12から2015年世界無線通信会議(World Radiocommu-nication Conference 2015 : WRC-15)にかけての議論、WRC-15以降の4つの期間に分け、NICTの貢献を含めてまとめる。3.1UTCの導入から研究課題の提起までUTCの議論の背景として、2でも触れた20世紀後半のITUとCGPM等における秒の定義等の議論を含めたUTC関連の動きを表1にまとめる。UTCは1970年にITU-Rの前身である国際無線通信諮問委員会CCIR(International Radio Consultative Committee)で承認された勧告460により1972年に導入された。その後、天文時に1秒以内で一致しているUTCは各国で様々に利用されるようになり、1975年のCGPMでは以下のような決議が行われた [5] 。3西暦出来事1956歴表時による秒の定義 (CIPM)秒は、暦表時の1900年1月0日12時に対する太陽年の1/31 556 925.9747倍である1960歴表時による秒の定義の批准 (CGPM)1967原子時による秒の再定義 (CGPM)秒は、セシウム133 原子の基底状態の2つの超微細準位の間の遷移に対応する放射の周期の 9 192 631 770倍の継続時間である1970勧告460の成立 (CCIR)世界中で報時する時系としてUTCを定義1972UTCの導入1975GGPMによるUTC利用の推奨第15回CGPM 決議51979無線通信規則(Radio Regulations : RR)へ記述 (WARC)1999UTCの将来問題に関する研究課題を米国が入力表1 2000年までのUTC関連の出来事2397-2 国際電気通信連合(ITU)における活動 —「UTCの将来問題」を中心に—

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